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聴き屋の芸術学部祭 [日本の作家 あ行]


聴き屋の芸術学部祭 (創元推理文庫)

聴き屋の芸術学部祭 (創元推理文庫)

  • 作者: 市井 豊
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2014/12/21
  • メディア: 文庫


<カバー裏あらすじ>
生まれついての聴き屋体質の大学生、柏木君が遭遇する四つの難事件。芸術学部祭の最中に作動したスプリンクラーと黒焦げ死体の謎を軽快に描いた表題作、結末のない戯曲の謎の解明を演劇部の主演女優から柏木君が強要される「からくりツィスカの余命」などを収録する。文芸サークル第三部〈ザ・フール〉の愉快な面々が謎を解き明かす快作、ユーモア・ミステリ界に注目の新鋭登場。


「聴き屋の芸術学部祭」
「からくりツィスカの余命」
「濡れ衣トワイライト」
「泥棒たちの挽歌」
の4話収録です。

作者の市井豊は、表題作である「聴き屋の芸術学部祭」で、第5回ミステリーズ!新人賞に佳作入選しデビューした作家です。
市井豊の作品を読むのはこの「聴き屋の芸術学部祭」 (創元推理文庫)が初めてですが、面白かったですね。
とても好感の持てる作風というか、読んでいて心地よいですね。
主人公である聴き屋のぼくや主要登場人物たちのキャラクターに負うところが多いと思います。
作風や作品の方向性は違うのですが、どことなく似鳥鶏の、「理由(わけ)あって冬に出る」 (創元推理文庫)から始まるにわか探偵団シリーズや、「午後からはワニ日和」 (文春文庫)から始まる楓ケ丘動物園シリーズを読んでいる時のような、心地よい読み心地を感じました。
絶対このシリーズ続けて読もうと決意しました。

しかし、この芸術学部、変人の集まりです。
一般に芸大は変人揃いだと言われますが(芸大のみなさん、失礼します)、他学部から隔離され、完全に独立した敷地にある芸術学部は、芸大に準ずるのでしょうか?

冒頭の「聴き屋の芸術学部祭」は、楽しい登場人物たちに翻弄されているうちに、驚きの事件と真相に行き当たるというストーリーですが、ミステリとしては、動機と結果のアンバランスさをどう処理するか、という点が気になるところを(気にしない読者もいらっしゃるとは思いますが)、力技でねじふせてしまうのが見事です。
芸術学部、ということが効果をあげていると思いました(重ね重ね、芸大のみなさん失礼します。

「からくりツィスカの余命」は、作中劇のラストを推理する、というぼくの嫌いなタイプの作品なのですが、この作品の場合はあまり嫌だとは思いませんでした。
登場人物たちの奇矯さにやられてしまったという側面はもちろんありますが、最後に実際の作者と突合して答え合わせをしてくれているからかも、と思いました。

「濡れ衣トワイライト」は小味な日常の謎ですね(もっとも渾身の力作である模型を壊されちゃった側からすると、日常の謎、とあっさり片付けるわけにはいかないかも)。
キーとなる事象、手がかりはミステリでは極めてありふれたものですが、謎の大きさとぴったりかな、と感じました。

「泥棒たちの挽歌」は、文芸サークル第三部〈ザ・フール〉の温泉旅行に行った先で遭遇する殺人事件を扱っています。くるくると転回する推理がポイントですね。

スカイエマによる表紙絵(カバーも、各話の扉イラストも)もいい感じです。

「限られたチャンスの中で持てるすべてを出しておきたい」(単行本あとがき)と思ったから、異なる趣向の作品が並んだ、とのことですが、逆に言えば、それだけ引き出しの多さがあるとも言えるわけで、今後の展開がどうなるかはわかりませんが(作者によると「次回はもう少し方の力を抜き、けれど手は抜かずに」)、楽しみな作家が出てきたな、という印象です。
次作「人魚と金魚鉢」 (創元推理文庫)に大いに期待します!

<蛇足1>
「からくりツィスカの余命」の101ページに
ぼくの先輩が児童文学論のレポートのテーマに選ぶのが
大海赫「ビビを見た!」 (fukkan.com)と、
エドワード・ ゴーリー「ギャシュリークラムのちびっ子たち―または遠出のあとで」(河出書房新社)
で、あまりのセレクションにぼくが
梨木香歩「西の魔女が死んだ」 (新潮文庫)
あたりをおすすめするシーンがあるのですが、いずれも読んでいないのでこのシーンのおもしろさを実感できないのが残念でした。

<蛇足2>
「濡れ衣トワイライト」の150ページに、
「俺の心はカスピ海より広いのだ」
と登場人物が言うシーンがあります。
それと対応するかたちで
「俺の心はサロマ湖より広いのだ」(167ページ)
とも言い、ぼくは
「カスピ海からの著しいスケールダウンだった」(167ページ)と感想を漏らすのですが、このあたり、あずまきよひこの「あずまんが大王」 (少年サンデーコミックススペシャル) (Amazonのリンクは、心を海と比べるのが何巻だったかわからないので1巻目にはっています)を思い出しました。確か、あれは瀬戸内海だったかな??



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