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蘇えるスナイパー [海外の作家 は行]


蘇えるスナイパー (上) (扶桑社ミステリー)蘇るスナイパー (下) (扶桑社ミステリー)

蘇えるスナイパー (上) (扶桑社ミステリー)
蘇えるスナイパー (下) (扶桑社ミステリー)

  • 出版社/メーカー: 扶桑社
  • 発売日: 2010/12/01
  • メディア: ペーパーバック


<カバー裏あらすじ>
4件の狙撃事件が発生した。まずニューヨーク郊外で映画女優が心臓を射抜かれて即死。続いてシカゴの住宅街で大学教授夫妻が頭部を撃たれ死亡。クリ―ヴランドでコメディアンが口を射抜かれて絶命する。使用ライフル弾はどれも同種と判明し、捜査線上にヴェトナム戦争の最優秀狙撃手が浮上するが、彼もまたライフル銃での自殺と推定される状況で発見される。事件は落着かに見えたが、FBI特捜班主任ニック・メンフィスはこれに納得せず、親友のボブ・リー・スワガーに現場検証を依頼した! <上巻>
ニューヨーク・タイムズを初め各メディアは連続狙撃犯の正体は自殺したヴェトナム戦争の名狙撃手だと報道したが、ボブは敢然と異を唱える。最大の理由は異常なまでに正確な狙撃精度だった。被疑者が持っていた旧式のスコープで、ここまでの精密射撃は不可能だった。それを可能にするのは超小型コンピュータ内蔵のハイテク・スコープ〈iSniper〉だけ……。ボブはその製造販売会社の実地講習会に潜入することを決意する。スナイパーの精髄を描破したシリーズ空前の傑作。<下巻>


2022年11月に読んだ4作目(4冊目と5冊目)の本です。
久しぶりに読むスティーヴン・ハンターのスワガー・サーガ。
前作「黄昏の狙撃手」 〈上〉 〈下〉 (扶桑社ミステリー) を読んだのが2013年7月ですから、ほぼ9年ぶりですね。
ふたたびシリーズのリストを。

01. 「極大射程」 〈上〉 〈下〉 (扶桑社ミステリー)
02. 「ダーティホワイトボーイズ」 (扶桑社ミステリー)
03. 「ブラックライト」〈上〉 〈下〉 (扶桑社ミステリー)
04. 「狩りのとき」 〈上〉 〈下〉 (扶桑社ミステリー)
05. 「悪徳の都」〈上〉 〈下〉 (扶桑社ミステリー)
06. 「最も危険な場所」〈上〉 〈下〉 (扶桑社ミステリー)
07. 「ハバナの男たち」 〈上〉 〈下〉 (扶桑社ミステリー)
08. 「四十七人目の男」〈上〉 〈下〉 (扶桑社ミステリー)
09. 「黄昏の狙撃手」 〈上〉 〈下〉 (扶桑社ミステリー)
10.「蘇えるスナイパー」 〈上〉 〈下〉 (扶桑社ミステリー)
11.「デッド・ゼロ 一撃必殺」 〈上〉  〈下〉 (扶桑社ミステリー)
12. 「ソフト・ターゲット」 〈上〉 〈下〉 (扶桑社ミステリー)
13. 「第三の銃弾」 〈上〉 〈下〉 (扶桑社ミステリー)
14. 「スナイパーの誇り」 〈上〉 〈下〉 (扶桑社ミステリー)
15. 「Gマン 宿命の銃弾」 〈上〉 〈下〉 (扶桑社ミステリー)
16. 「狙撃手のゲーム」 〈上〉 〈下〉 (扶桑社ミステリー)
17. 「囚われのスナイパー」 〈上〉 〈下〉 (扶桑社ミステリー)

シリーズ途中で翻訳が途絶えてしまうシリーズがいろいろとある中で、しっかりと邦訳が続いているのが素晴らしい。
いずれも、冒険小説の王道というか、堂々たる巨編ぞろい。小細工なく、一本調子の作品群です。

今回はライフルを使った連続殺人事件に我らがボブ・スワガーが巻き込まれ、冤罪を負わされたスナイパーの名誉回復を図ろうとする、というストーリーラインです。
事件の真犯人について早々にボブが見当をつけるという展開になっていまして、ミステリとしてみた場合は決め手不足(どころか手がかりがまったくない)であまりにも直感的、独断的なので減点要素となりかねないところですが、この作品の場合はむしろ長所で、強大な敵にいかに立ち向かっていくか、という目標を早々に定めることで安定した物語づくりに役立っています。

ストーリーとしては、もっぱら標的となるのはボブではなく、ボブの友人(と言ってよいと思います)である FBI のニックで、政治の街ワシントンで狙いすまされた攻撃に手を焼きます。
ボブは、ニックの依頼を受けて事件に巻き込まれるのですが、途中彼自らの人的魅力で人々をひきつけながら、真相に迫っていきます。
そして、いよいよスナイパー対決。
方や最新機能を搭載した〈iSniper〉を付けたライフル、方や旧式の(と言ってはいけないのかもしれませんが)従来型のスコープを付けたライフル。
不利な状況をどうやって切り抜けるのか、ボブのことだから切り抜けるに決まっているのですが、ドキドキします。
ボブは相手に
「おまえは裸になる。すっぽんぽんの丸裸に。ナイフや四五口径をどこにも隠し持てないようにだ」(下巻260ページ)
「単独で、丸腰で、丸裸で来い」(下巻261ページ)
と指示する状況に持ち込めますが、敵の仲間が待ち伏せしているに違いない。
まさに神業と呼びたくなるような手を打つのですが、それが後に下巻367ページあたりでさらっと明かされるのにちょっと感動してしまいました。

さらっと明かされるといえば、ニックの方が窮地を脱するエピソードもそうで、こちらはうまく作られているものの、どうしてそうなったのかがわからないまま物語が進むのですが、この点は下巻397ページから説明が試みられます。これがまたいいんですよね。

もう一つ感銘を受けたのは、ボブの奥様。
途中で負けを認め家に帰ろうとし電話したボブに対してかける言葉が素晴らしい。
「あなたをとても愛しているし、ずっといっしょにいてほしいけど、あなたは嘘をついている。自分自身に嘘をついているわ。声の響きにそれが聞き取れるし、あなたの納得がいくような解決をしなかったら、このあと、どんなに平和な暮らしを願ったとしても、そのよろこびは得られないでしょう。」(下巻62ページ)
「あなたはわたしたちを愛してくれている。それはたしかなことだけど、戦争こそがあなたの人生、それがあなたの運命、あなたのアイデンティティなの。だから、わたしのアドヴァイスは、こうよ。戦争に勝って。それから、帰ってきて。もしかすると、あなたは殺されてしまうかもしれない。それはつらいことだし、悲嘆して、娘たちといっしょに何年も泣き暮らすことになるでしょう。でも、それが戦士の道だし、わたしたちは戦士の最後の生き残りを愛した呪いを受けるしかないの」(同)
まあ、ボブに都合のいいセリフといえばそうですが、軍人の妻の矜持が感じられます。

原題の I, Sniper は、私はスナイパー、ということであり、キーとなる機器〈iSniper〉をかけたものですが、どうしても、アシモフの「われはロボット」(I, Robot)を思い出しますね。
特段意識されているものとは思えませんが、ロボットとはなにか、ロボットであるとはどういうことかを掘り進んでいった「われはロボット」同様、この「蘇えるスナイパー」もスナイパーとはなにか、スナイパーであるとはどういうことかを掘り進んでいるようにも思え、興味深く感じました。


<蛇足1>
「まったくもって美しい、きわめつけに美しい、文句なく美しい」(上巻9ページ)
きわめつけ、という語が使われています。本来は「きわめつき」が正しいと聞いたことがあります。

<蛇足2>
「とはいっても、おれにとってもお楽しみといえば、サッカーでヘディングを決めたり、ときどきデカパイ女を追っかけたり、寝転がってアガサ・クリスティの本を読んだりすることだ。」(上巻207ページ)
ライフル射撃の教官のセリフです。こんなところにまでアガサ・クリスティが出てくるのがうれしいですね。

<蛇足3>
「だが、リーンクインジーンのダイエット食を電子レンジで温めて、かきまわすだけの食事にはいいかげんうんざりだった。マカロニもチーズも、もう食べたくない!」(下巻111ページ)
「マカロニもチーズも」と書かれていますが、原文はおそらく macaroni and cheese (あるいはmacaroni & cheese)で、「マッカンチーズ(あるいはマッケンチーズ)」と呼んで親しまれている料理名なのではないかと思います。



原題:I, Sniper
作者:Stephen Hunter
刊行:2009年
訳者:公手成幸



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