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オリジン [海外の作家 は行]


オリジン 上 (角川文庫)

オリジン 上 (角川文庫)

  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2019/03/23
  • メディア: 文庫
オリジン 中 (角川文庫)

オリジン 中 (角川文庫)

  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2019/03/23
  • メディア: 文庫
オリジン 下 (角川文庫)

オリジン 下 (角川文庫)

  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2019/03/23
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
宗教象徴学者ラングドンは、スペインのグッゲンハイム美術館を訪れていた。元教え子のカーシュが、“われわれはどこから来て、どこへ行くのか”という人類最大の謎を解き明かす映像を発表するというのだ。しかし発表の直前、カーシュは額を撃ち抜かれて絶命する。一体誰が―。誰も信用できない中で、ラングドンと美貌の美術館長・アンブラは逃亡しながら、カーシュの残した人工知能ウィンストンの助けを借りて謎に迫る!<上巻>
ラングドンと逃げるアンブラは、スペイン国王太子フリアンの婚約者だった。アンブラによると、カーシュ暗殺にはスペイン王宮が関わっている可能性があるという。カーシュが遺した映像を見るには、スマートフォンに47文字のパスワードを打ち込む必要がある。ガウディの建築物“カサ・ミラ”にあるカーシュの部屋で手がかりを見つけたラングドンは、『ウィリアム・ブレイク全集』が寄託されたサグラダ・ファミリアに向かう。<中巻>
“われわれはどこから来て、どこへ行くのか”カーシュが解き明かした、人類の起源と運命に迫る真実とは何か。サグラダ・ファミリアを捜索し、ウィリアム・ブレイクの手稿本から手がかりを得たラングドンのもとに、暗殺者が迫る。正体不明の情報提供者。ネット上で錯綜するフェイクニュース。暗躍する、宰輔と名乗る人物。誰が誰を欺いているのか、先の見えない逃亡劇の果てにラングドンがたどり着いた衝撃的な真相とは―。<下巻>


2023年8月に読み終わった最初の本です。
ダン・ブラウンの「オリジン」。

「天使と悪魔」 (上) (中) (下) (角川文庫)
「ダ・ヴィンチ・コード」(上) (中) (下) (角川文庫)
「ロスト・シンボル」 (上) (中) (下) (角川文庫)(感想ページはこちら
「インフェルノ」(上) (中) (下) (角川文庫)(感想ページはこちら
に続く、ラングドン・シリーズ第5作です。

数々の斬新なアイデアを提示してきたダン・ブラウンですが、今回挑んだのが、“われわれはどこから来て、どこへ行くのか”という人類の起源と運命に迫る真実。

この謎を、登場人物の一人であるカーシュが解き明かした、と。
そしてその真実は、
「この情報が世界じゅうの宗教信者に深刻な影響を与え、変化を引き起こす恐れがきわめて大きい」(17ページ)
というものだと。

なんとも大げさで大上段に振りかぶったようなものですが、肝心のその真実の中身は、なかなか明かされません。
その周辺をうろうろ。なにやら重大そうなことが起こるのだと、キリスト、ユダヤ、イスラムの指導者たちの姿を通して描いていきます。
一方で、スペインのグッゲンハイム美術館を舞台に、そのカーシュが発表会を開く、と。そこでカーシュが殺されてしまい......
そこからラングドンの逃走劇&追跡劇が始まります。
カーシュの残した人工知能のウィンストンとともにラングドンの冒険が始まり、目まぐるしいような派手な物語が展開します。
スペインの王家も巻き込む大活劇。

これはこれでいつものごとく、面白かったのですが、わがままな読者としては、そんなのもういいから、例の ”真実” を早く明らかにしてくれよと思いました。
大きく振りかぶった例の ”真実” にこそこちらの興味はあるですから。
小説として、新発見とか真実とかが最後まで明かされない、というパターンがあり得ます。
この小説がそれだといやだなあ、
でも、全宗教を揺るがすような真実なんて、作り出せるのだろうか? 無理だとするとぼやかしてしまうこともありうるよなぁ、と期待半分、おそれ半分で読んでいきました。

結論から申し上げると、作中でその ”真実” は明かされます。
未読の方の興趣を削がないようエチケットとして、色を変えておきますが、
「原始の地球で起こった、化学物質の複雑な相互作用。ユーリーとミラーの実験は、そのシミュレーションをおこなったモデルの先駆けだったというわけだ。」(下巻134ページ)と説明されるユーリーとミラーが失敗した実験を、カーシュが成功させたというものです。(以下も伏字だらけになって恐縮です)
これが成功すれば確かに画期的だと思います。
でも、宗教界を揺るがすほどの事態になるでしょうか?

「ラングドンは、だれもカーシュの話を聞いていなかったのではないかと思った。物理法則だけで生命を創造できる。カーシュのその発見は魅惑的で、たしかに刺激的だが、ラングドンが思うに、重大な問いを投げかけていて、だれもその問いを口にしないのが意外だった。物理法則に生命を創造するほどの力があるのなら……その法則を創造したのはだれなのか。」(下巻207ページ)
とラングドンの意見として作者みずから留保をつけていたりもしますが......。
ラングドンの意見は論理をもってする議論である一方、信仰はもともと論理的に説明しつくせるものではないと思います。この点で、カーシュの発見で揺らいでしまうものなのでしょうか? もちろん、揺らいでしまう人もいるでしょう。けれど、人類全体として宗教の意義が失われるとも思えませんし、信仰が絶えることもないと思います。
宗教ってもっと根強くしたたかなものだと思うのです。
あと作中に出されている宗教が、キリスト、ユダヤ、イスラムと、乱暴に言ってしまえば同根ともいえる似た宗教なのもちょっとどうかな、と。
たとえばわれわれ日本人には身近な仏教や神道、それにいわゆる原始宗教はまったく違う世界観を持っているので、このカーシュの発見をもってしても微塵も揺らがない気がします。

このように "真実" そのものとその影響については疑問を多々感じてしまいましたし、カーシュの発見自体、その経緯を考えると、そもそもAIに信を置きすぎだよ、と思えてくるところがあるのが困りものなのですが、それでも、ラングドンとAIウィンストンのやりとりは、この物語のキーであり、とても面白かったです。

「人間が合成知能との関係を感傷的にとらえるのは不思議ではありません。コンピューターは人間の思考過程を模倣し、学習した行動を真似して、その場にふさわしい感情を再現し、つねに ”人間らしさ” を高めることができます。とはいえ、それはすべて、わたくしたちとコミュニケ―ションをとりやすいインターフェースを提供するためにすぎません。わたしくたちはまっさらな白紙なのです。あなたがたが何かを書きこんで……課題(タスク)を与えないかぎりは。わたくしはエドモンドのためのタスクを完了しましたから、いくつかの意味で、もう一生を終えたのです。もう存在する理由がありません」
 ラングドンはウィンストンの論理にまだ納得がいかなかった。「でも、そんなに高性能なんだから……きみにだってあるだろうに……その……」
「夢や希望が?」ウィンストンは笑った。「ありませんね。想像しにくいでしょうが、わたくしは主の命令を実行できればそれで満足なのです。そのようにプログラムされていますから。」(212ページ)

という部分など、森博嗣のWシリーズ、WWシリーズで展開される世界観とまったく異なるもので、とても興味深かったです。
その点では、“犯人探し”の部分も皮肉が効いていてよかった。

”真実” 部分には共感できなくとも、そもそも風呂敷を拡げるような作風は大好きですし、そのまわりに楽しめる要素が存分にちりばめられていて、楽しく過ごせました。


<蛇足1>
「骨伝導技術のもともとの発案者は、この十八世紀の作曲家だと言ってかまわない。聴力を失ったベートーヴェンは、演奏するピアノに金属の棒を取りつけて、その棒を口にくわえ、顎の骨に伝わる振動から音を完璧に聞きとったという。」(46ページ)
このエピソード、知りませんでした。

<蛇足2>
「ハーヴァード大学には、携帯型の電波妨害装置を使って教室を "不感帯(デッドゾーン)" にし、学生が授業中に携帯電話を使えないようにしている教授が何人かいて、自分もそのひとりだったからだ。」(上巻131ページ) 
ハーヴァードほどの大学でも、学生は授業中にも携帯を手放せないものなのですね。
ラングドン教授をもってしても、携帯電話にはかなわない?(笑)

<蛇足3>
「日本のある文学賞で、人工知能が執筆に大きな役割を果たした小説が受賞寸前まで行ったこともあるという。」(中巻29ページ)
何年か前に話題になった気がしますね。
星新一賞のことでしょうか?



原題:Origin
作者:Dan Brown
刊行:2017年
翻訳:越前敏弥



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