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貧乏お嬢さま、空を舞う [海外の作家 は行]


貧乏お嬢さま、空を舞う (コージーブックス)

貧乏お嬢さま、空を舞う (コージーブックス)

  • 出版社/メーカー: 原書房
  • 発売日: 2014/06/06
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
猛暑のロンドンを訪れる貴族は少なく、ジョージーのメイド仕事は減激。そこで、楽に稼げて豪華な食事にありつける仕事を思いつくものの、たちまちロンドン警視庁に呼び出され、世間知らずだったと思い知らされる。さらに、有名飛行士のメイドが事故死し、遺留品の中になぜかジョージーに宛てた謎の手紙が見つかったことから、すぐさま警視庁は王室のスキャンダル対策としてジョージーを帰郷させることに。ところが、彼らの目的は他にあった。王位継承者に相次ぐ不審な「事故」の真相を探るスパイとして、王族のいるスコットランドに彼女を送りこんだのだ。そこでは、継承順位の低い兄ビンキーや、果てはジョージーにまで危険が迫り、絶体絶命の大ピンチに!


2023年8月に読んだ7冊目の本です。
リース・ボウエンの「貧乏お嬢さま、空を舞う」 (コージーブックス)
「貧乏お嬢さま、メイドになる」 (コージーブックス)(感想ページはこちら
「貧乏お嬢さま、古書店へ行く」 (コージーブックス)(感想ページはこちら
に続くシリーズ第3弾。

空を舞う、とは? とタイトルをみて思いましたが、ロニー・パジェットという女性冒険家(女性飛行士と巻頭の登場人物表には書いてあります)が出てきて納得。
このロニー、すごい人でロンドンからケープタウンへの単独飛行に成功した、という設定。
ということで、ジョージ―は飛行機に乗って飛ぶのですが、「空を舞う」というほど優雅ではないですね。

事件は王位継承者を狙うものということで、かなりの大事で、普通に考えたらジョージ―に探求の白羽の矢が立つことは考えにくいのですが、事故だろうと思われているので表立って警察などが動きにくい、という流れになっています。
自分のしでかしたミスに付け込まれ(?)、警察副総監から依頼されるジョージ―。
舞台は王室のバルモラル城やジョージ―の実家であるラノク城のあるスコットランドへ。

ジョージ―の友人ベリンダやジョージ―の母といったシリーズおなじみの面々に加え、先述のロニーたちに、デイヴィッド皇太子の恋人ウォリス・シンプソン夫人とその一団など、にぎやかな面々がにぎやかに騒動を巻き起こしていきます。
ジョージ―は王位継承者であり、時代も時代なので出てきて不思議はまったくないのですが、エリザベス2世の幼年時代──というか少女時代が出てきて楽しくなりました(253ページあたりから)。
乗馬が好きな活発な少女として描かれていますが、銃弾に狙われるという緊迫したシーンまであってちょっとびっくり。

警視庁の連絡係が誰か、というのは読者には相当早い段階でわかってしまうのだろうと思いますが、事件の真相のほかに細かな謎がちりばめてあるのが楽しい。
ミステリ的な興味に加え、ジョージーとダーシーの関係の進展も見どころですね。

それにしても、”空を舞う” のが危機的状況になり、その危機をダーシーが救ってくれるというのが、おきまりとはいえさすがダーシーというところなのですが、さすがにこの危機は救えないのでは? まあ、シリーズ的にジョージ―が救われないと困るんですけどね。

このシリーズ、とても読みやすく楽しいので、これからも続けて読んでいきます。



<蛇足1>
「セントジェームズ・パーク駅のエスカレーターをあがりながら、顔を伝う汗の粒を何度もそっとぬぐう。」(14ページ)
セントジェームズ・パーク駅にはエスカレーターはなかったように思うのですが。
毎日のように利用していた駅だというのに記憶が.....
それはそれとしてこの文章
「もちろん貴婦人は汗などかかないものだけれど、なにかが滝のようにわたしの顔の上を流れていた。」と続いてクスリとできます。

<蛇足2>
「わしが狩猟や狩りをしたり、貴族連中とつきあったりするのを想像できるかい?」(77ページ)
ジョージーのおじいちゃんのセリフです。
狩猟と狩りって別物なのでしょうか?

<蛇足3>
「あら、あなたは面白いと思うの? 皇太子はいずれ国王になるのよ。ウォリス女王なんて想像できる?」(121ページ)
話題になっているのはデイヴィッド皇太子とその恋人であったウォリス・シンプソン夫人です。
国王の妻は英語では Queen 。日本語に訳すときには女王ではなく王妃とすべきかと思ったのですが、「不思議の国のアリス」のハートの女王など、女王と訳す例は多いですね。
一方で本書では
「大きな出窓の下に置かれたテーブルに王妃陛下が座っているのが見えた。」(255ページ)
と王妃という語も使われているので、統一すればいいのに、とは思いました。

<蛇足4>
「わたしはちらりとラハンを見やり、ハギスに舌つづみを打つような人とは絶対に結婚できないと考えた。」(234ページ)
本書で、早朝のバグパイプの演奏とともにアメリカ人除け(!) に使われるハギスですが、評判がすごくて食べたことがありません。が、よく冗談に使われる食べ物ですね。ここでもひどい言われようです。
内臓系の料理はもともと食べられないので(好き嫌いが多くすみません)、もとより無理なんですけどね──その意味では、国王陛下が好まれるちゃんとしたイギリス料理(257ページ)として挙がっているステーキ・アンド・キドニーパイも食べられません.......

<蛇足5>
「ありがとうございます、陛下。喜んでご相伴に預からせていただきます」(256ページ)
ああ、またも「させていただきます」だ(最近指摘しないようにしていますが)、と思ったのですが、これは王妃に対するジョージ―のセリフですので、まさに ”許しを得る” (陛下からの申し出で、たとえ形式的であっても)場面なので適切なのだな、と自分でおかしく笑ってしまいました。

<蛇足6>
「『ありえない』まるで女学生のような言葉遣いだと気づくより早く、わたしはつぶやいていた。」(304ページ)
視点人物のことなので、英文和訳の問題だと
「『ありえない』つぶやいてしまってから、まるで女学生のような言葉遣いだと気づいた」
と訳さないといけないところですね(笑)。
『ありえない』の原文が気になるところです。

<蛇足7>
「向こうの隅のベンチに地図が置いてあることに気づいた。手に取ってみると、王立自動車クラブ(RAC)発行のスコットランド中央部の道路地図だった。」(311ページ)
ここでいうRACは、ロード・サービス等をやっている企業で、紳士クラブである王立自動車クラブとは違うよな、と思い、同じような指摘を「巡査さん、事件ですよ」 (コージーブックス)感想でしましたが、調べてみると、ロード・サービスのRACはもともとは王立自動車クラブのものだったそうです(現在は売却されてRACのものではなくなっているようですが)。
ということで、ジョージ―のいた時代には、間違いなく王立自動車クラブのものですね。

<蛇足8>
訳者あとがきのバルモラル城の説明で、ヴィクトリア女王について触れられています。
「女王がバルモラル城にいる時間は次第に増えて初夏から秋にかけて四カ月ほども滞在するようになり、やがて狩猟案内であったジョン・ブラウンという男性と親密な関係になったという説があります。真偽のほどは定かではありませんが、女王がブラウンを寵愛したことは確かで、女王が作らせたブラウンの肖像画や胸像などは、女王の死後、息子であるエドワード七世によってすべて破棄、もしくは破壊されたということです。」
ここを読んで飛行機の中で観た映画『ヴィクトリア女王 最期の秘密』(ジュディ・デンチ主演)を思い出しました。こちらはお相手(?) はインド人家庭教師でしたけどね。
作中に貴婦人が森番とうんぬんという話題はわりと出てきます。
D・H・ロレンスの小説からチャタレー夫人が引き合いに出されたり(108ページ)、ジョージ―が母と
「お母さまはいつだっていなかったもの。わたしの知識はどうしようもなく穴だらけよ。仲良くしてくれる門番だって見つけられなかったし」(158ページ)と会話したり、ジョーイ―がメイドのマギーに地所で働く人たちのことを尋ねたら「地元で結婚相手を探すつもりですか?」(178ページ)と笑われたり、嫌なジークフリート王子からくどかれて「地元の森番のほうがずっとましだわ」(215ページ)と思ったり、などなど。
これらはひょっとしてヴィクトリア女王のエピソードを踏まえたもの、だったのでしょうか?




原題:Royal Flush
作者:Rhys Bowen
刊行:2009年
訳者:田辺千幸






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