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星詠師の記憶 [日本の作家 あ行]


星詠師の記憶 (光文社文庫)

星詠師の記憶 (光文社文庫)

  • 作者: 阿津川 辰海
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2021/10/13
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
被疑者を射殺してしまったことで、一週間の自主謹慎に入った刑事の獅堂(しどう)は、故郷の村を訪れている。突然、学ランの少年・香島(かしま)が、彼の慕う人物が殺人事件の犯人として容疑をかけられている、と救いを求めてきた。殺人の一部始終が記録されている証拠の映像は、紫水晶の中にあり、自分たちはその水晶を研究している〈星詠会〉の研究員であると語るのだが──。


2023年8月に読んだ6冊目の本です。
阿津川辰海の「名探偵は嘘をつかない」 (光文社文庫)(感想ページはこちら)に続く長編第2作、「星詠師の記憶」 (光文社文庫)
「名探偵は嘘をつかない」に痛く感じ入ったというのに、2作目を手に取るのがとても遅くなりましたが、それは450ページほどというそこそこ分厚い本であることと、またあの濃密なミステリ世界に浸るのが、それはそれで快感といいながら少々おじけづいたところがあった(しっかり楽しむにはこちらも落ち着いて浸りきれるような環境にあった方がよいと考えた)からです。
今回もしっかり構築されたミステリ世界を堪能しました。

特殊設定ミステリに入るのでしょう。
未来予知が可能な世界を舞台としています。
しかもこの未来予知、紫水晶の中に映像として記録され、予知する本人だけではなく第三者にも確認できるという優れモノ。
そして「水晶に映された未来は、どうあがいてもその通りになる」(126ページ)

面白いな、と思ったのは、未来予知が可能となると、すぐに宗教的な団体に発展していく、と(読者として)考えてしまうところですが、この作品では企業が目をつけ、予知に不可欠な紫水晶の産地あたりを買い取り、研究所を設立している、というところ。
それでもやはり宗教的匂いはするのですが、幻想的ではなく理知的な雰囲気を醸すのに役立っています。

未来予知できる人が星詠師。研究所が紫香楽電機のイメージングメディア事業部内「クリスタル研究所」、通称<星詠会>。
余談ですが、星詠師は ”せいえいし” と読むのですね。”ほしよみし” と読むのだと思っていました。

ミステリとしての注目は、いわゆる後期クイーン問題でしょうか?
探偵がそれに自覚的に推理を進める、というのが面白いです。
「もし犯人が<星詠師>だったとする」
「それで、これを犯人に当てはめてみたら、恐ろしい可能性を思いついたんだ──もし犯人が未来を見て、俺たちの推理をすべて先回りしていたらどうなるだろう、ってな」
「俺たちの掴む証拠は、全て犯人が予測してバラまいた偽証拠かもしれない」(いずれも316ページ)
このあとあまり深入りはしないのですが、それでも全編にわたって探偵役の推理が難航することを予感させてくれる重要なポイントだと思います。

やはり予知が記録される紫水晶というのが大きな要素になっていて、ここが前提となって推理も物語も進められていきます。
その意味では、紫水晶の中の記録そのものを偽造する、ということには触れられていませんので、この記録は作品世界の中の絶対真実として扱われています。
記録と矛盾するからこの推理は間違い、記録にあるからこうだったに違いない、というように進んでいきます。
探偵役の獅堂は香島から、石神真維那の容疑を晴らすように頼まれた、というのが導入部ですので、物語の進み方として、紫水晶に犯行の様子が記録されているのにもかかわらず、真維那が犯人ではないことを証明しなければならない、というふうになっています。

豊富なアイデアを贅沢にちりばめられた作品で、作者の剛腕ぶりを楽しめますし、ステンドグラスのようにミステリのさまざまな要素がキラキラ輝いて惹きつけてくれます。
特に素晴らしいと思ったのは、推理、あるいは犯人指摘のところで、紫水晶の記録を縦横に使いこなしていることです。
推理の軛となる記録をつかって罠を仕掛け犯人を追いつめたくだりとか、わくわくしました。

とても複雑なプロットを内包し、登場人物の思惑が輻輳しています。
作者の手つきとして、これは手がかりですよ、というのをかなりあからさまに示してくれているのですが(たとえば絨毯)、それらの数々の手がかりを組み合わせて真相に辿り着くのは容易ではないと思います(直感的に犯人の見当はつくのですが)。
冷静に考えると無理なところが目立つ気もするのですが、”予知” の存在を前提とすると、思考形式や行動形式が変わってしまうのかもしれないな、”予知” があればこういう風に考えるのかな、と想像してしまうくらいには人物が書き込まれているので、強い不満にはなりません。この点については、解説で斜線堂有紀が明晰に分析しています。

阿津川辰海、いいですね。
積読をしっかり消化していきたいです。








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