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五枚目のエース [海外の作家 は行]


五枚目のエース (ヴィンテージ・ミステリ・シリーズ)

五枚目のエース (ヴィンテージ・ミステリ・シリーズ)

  • 出版社/メーカー: 原書房
  • 発売日: 2014/07/15
  • メディア: 単行本

<カバー袖あらすじ>
警官の目前で事故を起こした車にはシャベルとともに女の死体が積まれていた。運転手の男は逮捕され、死刑判決を受ける。
執行まであと九日間。そこへきて元教師の素人探偵ミス・ウィザーズが首を突っ込んできた。「冤罪かもしれないわ」
旧友パイパー警部を巻き込んで引っかき回しては ”容疑者” を集めていくが、しかし決定打がない。
カードも出尽くしてしまったと思われたところでミス・ウィザーズはある提案をする。
「みんなを集めてほしいの」
五枚目のエースはすべてをひっくり返すのか────
エラリー・クイーンのライヴァルが贈るデッドライン&スラップスティックの傑作!


2023年11月に読んだ4作目の本です。
スチュアート・パーマーの「五枚目のエース」 (ヴィンテージ・ミステリ・シリーズ)
単行本です。
そういえば、原書房のこのヴィンテージ・ミステリ、最近出ていないですね。

さて、ミス・ウィザーズが、知り合いの警察と一緒に捜査するという典型的な素人探偵物の筋書きなのです。
素人探偵が警察と仲がいい(というか、警察が素人探偵に寛容)というのは時代のせいなのでしょうが、それにしても、ミス・ウィザーズが事件に乗り出す理由が薄弱すぎてびっくりします。
関係ないのに引っかき回さないでくれ、とパイパー警部でなくても言いたくなるところ。

事件は、死刑執行間近の死刑囚を救えるか、というタイムリミットが設定されているというのに、なんとも緊迫感がないのは、これも時代のせいですかね?
あるいは探偵役をつとめるミス・ウィザーズのキャラクターのせい?
引用したあらすじに、スラップスティックとありますが、その点も、おそらくタイムリミットとすれ違ってしまっているのでしょう。

この作者のユーモア(?) のセンスは合わなかったですね。
森英俊の解説によると、ミス・ウィザーズは帽子が特徴のようで、その帽子をパイパー警部がからかう、というのが定番らしいのですが、これがおもしろくない。
本書でも
「潮の流れにとり残された漂流物の残骸かと思ったよ」(123ページ)
というところがありますが、うーん、笑えますか、ここ?

個人的に面白かったのは、こういうユーモアの発揮されるところではなく、解決編の直前で、パイパー警部とミス・ウィザーズが賭けをするところでした。
「この件がどういう結果になろうと、これはわたしたちが一緒に関わる最後の事件になる。わたしも本気だからな」(255ページ)
とパイパー警部がいうような賭けでして、楽しめました。

ミス・ウィザーズのキャラクター自体、あまり好みではありませんでした。

ミステリとしては、犯人の隠し方がちょっと面白かったです。
ありふれた手といえばありふれた手(それほど似てはいないのですが、某日本作家の某作を思い出しました)ではあるものの、人物設定には合っているように思えました。

原題はグリーンのエース(The Green Ace)。
邦題の五枚目のエースも同じものを指すようで、
「ミス・ウィザーズは古い話を思い出した。列車の中で暴君とカードをしていた男の話だ。エース四枚という完璧な手が回ってきたのに、その暴君は、ヒッポグリフのグリーンのエース(すべてのカードを取ることができる最上級のカード)を引いたのだ。」(181ページ)
という箇所があります。
でも、これ、意味がわかりませんでした。
死刑囚を救わないといけないので、最強を上回るような切り札が必要ということなのでしょうか?



<蛇足1>
「現代では、エスパーとか空飛ぶ円盤とか水素爆弾というものとは、一線を引くものでしょう?」(37ページ)
ミス・ウィザーズのセリフです。
水素爆弾って、超能力やUFOと同列に扱われちゃうものだったんですね。

<蛇足2>
「この手のたわごとは、サー・オリヴァン・ロッジ(英国の物理学者、心霊現象研究協会メンバー)やボストンの霊媒(マージェリー)や、こうしたことに心酔したコナン・ドイルの著作と共に姿を消したはずだ。昨今では、騙されやすい哀れな女性たちが、精神医学やカナスタや実存主義を持ち出して、笑いものになっているだけ」(37ページ)
カナスタがわからなくて調べたら、トランプゲームの1種のようです。
この文脈で出てくる意味がわかりません......

<蛇足3>
「しかし、ほかになにが見つかるというのか? ガラスの皿に盛りつけられたグリフォンの胸肉や、マンドレークのクリームあえや、ツタウルシのサラダがあるとでも?」(78ページ)
グリフォンは架空の動物、マンドレークは実際にあるハーブですが伝説の生き物でもあり、ツタウルシは実際にある植物。
この取り合わせがわかりません。

<蛇足4>
「マリカ・ソレンには前科がある」「一九四八年一月、ライセンスなしで占い師を語った疑いで逮捕されているが、起訴には至らなかった。」(84ページ)
「語った」は「騙った」のタイポだと思われますが、占い師にライセンスがあったのですね。

<蛇足5>
「きみは」警部は意気込んでいった。「スコットランドの質屋と同じくらい騙されやすいよ」(132ページ)
こういう言い回しがあるのですね。きっとなにか謂れがあるのでしょうね。



<蛇足6>
「『父には今朝、事件のこれまでの経過をすっかり話してあります』
『みごとな行動です』チャーリーは感心してうなずいた。」(141ぺージ)
感覚の違いにすぎないのですが、「話した」という事実を「行動」と受けるのに違和感を覚えました。

<蛇足7>
「リンゴの花はダンプリング(リンゴ入り蒸し団子のようなデザート菓子)よりはるかに美しいのです」(291ページ)
英語でダンプリングというと、餃子(あるいはそれに似たような料理)を連想してしまったのですが、お菓子もあるのですね。

<蛇足8>
「疑われたくなければ、スモモの木の下で帽子に手を伸ばして整えてはいけないといいます。」(297ページ)
日本では通常「李下に冠を正さず」とされている故事成語ですね。

<蛇足9>
「たとえ黄金のベッドでも病に苦しむ人を癒すことはできません。すぐれた礼節も、すぐれた人間を生むことはできないのです。」(347ページ)
ベッドのたとえはとても面白く感じましたが、後段とのつながりが今一つピンときませんでした。



原題:The Green Ace
作者:Stuart Palmer
刊行:1950年
翻訳:三浦玲子






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