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エンドレス ファイト [日本の作家 あ行]


エンドレスファイト (新潮文庫)

エンドレスファイト (新潮文庫)

  • 作者: 淳, 井上
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2023/11/13
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
中国大物政治家の訪問で沸きかえるサンフランシスコで、停まっている車から日本人実業家と黒人浮浪者の射殺死体が発見された。日本人の名は江崎。帝国陸軍の諜報機関にいた男だ。かつての上官・狩野は、その死の謎を追ってサンフランシスコに飛ぶ。ジャーナリストを装って事件を追う狩野の前に、国際的な暗殺計画が次第に明らかにされていく…。スケール大きく描く本格サスペンス。


2023年11月に読んだ3作目の本です。
井上淳「エンドレス ファイト」 (新潮文庫)
古い本を積読から引っ張り出してきました。
カバー裏にバーコードがついていません。奥付は昭和六十三年(!) 九月二十五日発行。

作者の井上淳は「懐かしき友へ―オールド・フレンズ」 (新潮文庫)で第2回サントリーミステリー大賞読者賞を受賞してデビューした作家です。
「懐かしき友へ―オールド・フレンズ」 以外では、新潮ミステリー俱楽部から出た「赤い旅券(パスポート) 」を読んだことがあります。
日本人作家では少ない、国際謀略小説の書き手でしたね。

冒頭のプロローグは御殿場でのマッカーサー。
そして朝鮮戦争さなかに移り、その後は現在のサンフランシスコへ。
毛沢東や金日成の意に逆らって朝鮮戦争を休戦に導いた後、さっさと故郷の吉林省に引きこもってしまったあと復活を遂げた中国大物政治家劉の訪米が計画されている。
そのサンフランシスコで殺された日本人江崎。つながりのある財界の黒幕辻の依頼を受け、主人公狩野俊作は渡米する。
劉の活躍を快く思っていない中国やソ連の動向も描かれます。

タイトルの「エンドレス ファイト」とは、
「われわれも、あれで戦争が終わるものだと思っていた。しかし、そうではなかった。三十年のあいだ、われわれの知るよしもないところで、静かに戦争が続いていたんだ」(383ページ)
というセリフにあるように、朝鮮戦争から続く長い権力をめぐる争いを指しますが、同時に、主人公狩野の個人的な闘いでもあります。
個人レベルに落とし込んでいるところがミソ。

闘いの行方とともに、そもそもの発端ともいえる劉の朝鮮戦争当時の行動の理由、
「しかし、劉にとっては、中国の運命や彼の名誉とひきかえにしても、守りとおさなければならないものがあったのだ」
「そんなものが、この世にあるのかね」(383ページ)
と会話されるような「守りとおさなければならないもの」の正体が読者の興味の焦点となります。
この部分、拍子抜けというか、そんなこと? と思う読者もいるかとは思うのですが、個人的には妙な説得力を感じました。

粗いところが多々あり(というか、そもそも国際謀略小説というのは粗いものだという気もします)、万人向けするお話ではないとは思いますが、こういう作風はあまりないので貴重だと思います。
最近はこういうのは受けなさそうで難しいとは思いますが、井上淳の諸作など復刊してほしい気がします。


<蛇足1>
「なにもおなじ場所に、別べつのタクシーで行くことはない。いっしょなら経済的ですし、広い意味では、貴重なエネルギー資源の節約……になるかもしれません」(140ページ)
本書は時代的には、日本でバブル華やかなりしころだったと思いますが、エネルギー資源の節約がさらっとセリフで出てくるのですね。

<蛇足2>
「ウェスティン・セント・フランシスは、ユニオン・スクエアの西側に聳やぐ、この皆なに愛される田舎町(エヴリワンズ・フェイヴァリト・タウン)を代表するホテルである。」(141ページ)
「聳やぐ」という語は初めて見ました。辞書にも載っていないですね。聳えるという意味でしょうけれど。

<蛇足3>
「ケージが、ワイアをつたって昇りはじめる。」(194ページ)
エレベーター(本書の表記ではエレヴェータ)についての文ですが、エレベーターはワイアを「つたって」いくものではないような気がします。
そういう仕組みでしたっけ?






タグ:井上淳
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