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サロメの夢は血の夢 [日本の作家 は行]


サロメの夢は血の夢 (光文社文庫)

サロメの夢は血の夢 (光文社文庫)

  • 作者: 貴樹, 平石
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2020/07/08
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
ドアを開けたら首が転がっていた! ―やり手の会社社長、土居楯雄の首が、切断されて発見された。現場の壁に留められていたのはビアズリーのサロメの複製画。警察の聴取が始まるが、楯雄の娘、帆奈美と連絡がつかない。家族が心配していると、死体が見つかったという連絡が入った。彼女は、ミレーのオフィリアのような姿で発見されたのだった──。


2023年11月に読んだ2作目(3冊目)の本です。
平石貴樹「サロメの夢は血の夢」 (光文社文庫)

冒頭に作者のことばとして「内的独白」の手法をミステリで試みた作品であることが述べられます。
村上貴史の解説の説明をひくと「それぞれの登場人物が見聞きしたことをありのままに読者に示すのである。それだけではない。心の内側までも、読者に包み隠さずさらけ出してしまうのである。」ということで、ミステリには極めて困難をもたらす手法です。

この行き方の場合、犯人の視点をとる場合は、自分が犯人であることを前提とした発言や感想がない場面でなければならないということになり、かなり限定されてしまいます。
一方で、あまりに視点になることが少ないと、かえって読者に怪しまれてしまうという弱点を抱えてしまうことになり、バランスのとり方が難しいのでしょう。

一方探偵の視点をとるケースで、あまりにあけすけに考えていることがさらされると、まだまだ読者に隠しておきたい(解決の)方向性が早々にばれてしまうという問題も出てきます。

このためか、この作品では犯人であるなしにかかわらず、隠し事を抱えている登場人物が多数──というか、ほとんどになっています。

こうした制約のせいか、いつもの平石貴樹作品のような、謎解きの切れ味はあまり感じられませんでした。
そのかわり(?)、ずっと曖昧模糊とした展開だったものが急展開し、バラバラだった要素が集まってすっと全体像としてまとまる様子を楽しむことができます。
とすると、そうしてできあがる絵面が勝負のポイントとなろうかと思うのですが......

サロメから連想されるように、首切り死体で、通常とは逆に首だけ見つかって体の部分が見つからない、という事件。
オフィリアと併せて、見立て殺人になっています。

見立て殺人であること、首切り事件であるということ、ともに「内的独白」の手法を採用した影響を受けているように感じました。また動機についても、おそらく影響があったのでしょう。
その点で、「内的独白」の手法を採ったことがミステリとして好影響を与えたかどうか、というとちょっと疑問かな、と。
作者が事件を組み立てるときに、制約が多すぎたのかな、と思ってしまいました。
この作品ほど意識的ではないにせよ、クリスティはいくつかの作品で似たような手法を取っていたかなという気がします。意識的でない分、もっともっと緩い制約でクリスティはプロットを組み立てていたようにも思います。

こうした欠点を抱えていても、とても興味深い実験に作者が挑んでいることには間違いなく、わくわく読めました。
あと、さらりと更科ニッキがゲスト出演していて楽しかったです(名乗るのが180ページ)。


<蛇足>
「それでおれは駅の近くで映画を観た。『ローズ家の戦争』さ。いい映画だったよ。」(178ページ)
ダニー・デヴィート監督、マイケル・ダグラス、キャスリーン・ターナー主演の1989年の映画ですね──そんな前なのか......
この映画、いい映画でしたっけ(笑)?


タグ:平石貴樹
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