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霧に包まれた骸 [海外の作家 は行]


霧に包まれた骸 (論創海外ミステリ)

霧に包まれた骸 (論創海外ミステリ)

  • 出版社/メーカー: 論創社
  • 発売日: 2014/10/01
  • メディア: 単行本




2023年12月に読んだ4冊目の本です。
ミルワード・ケネディの「霧に包まれた骸」 (論創海外ミステリ)
単行本で、論創海外ミステリ132です。

ミルワード・ケネディの作品は「救いの死」 (世界探偵小説全集)を読んでいますが、まったく印象に残っておりません(笑)。
面白かったという記憶もないかわりに、つまらなかったという印象もない。
ただ、そのあと出た「スリープ村の殺人者」 (SHINJUSHA MYSTERY)の購入を見送っていますので、可もなく不可もなく、という感想だったのかな、と想像。

で、この「霧に包まれた骸」 (論創海外ミステリ)は、面白かったです!

濃霧の夜に発見されたパジャマ姿の遺体
複雑怪奇な事件の絵模様がコーンフォード警部を翻弄する」

と帯にあり、南米からイギリスに帰国した裕福なヘンリー・ディルと思われる死体発見から始まります。
この死体が本当にヘンリー・ディルのものなのか、次第にそういう疑念が沸き起こってくるあたりから、とても面白くなりました。

このコーンフォード警部、やたらいろんなことに想像をめぐらす刑事さんでして、ああでもないこうでもない、といろいろと考えているうちに迷走します。
この迷走ぶりが楽しい。
事件の設定として、そんなにいろんな可能性が考えられるようにはなっていないので、限られた可能性の中右往左往する刑事さんがいいですね。
迷走するコーンフォード警部を、冷静に導いていきそうな上役も、ミステリでは珍しいタイプ。

そうこうしているうちに、意外な(?) 探偵役が登場し、さっと解決を提示してみせるところもなかなかいい。
あなたが探偵役でしたか......
登場人物も限られていますし、意外な真相とは正直言えませんが、解説で真田啓介が指摘している複雑な犯人像も楽しかったです。
(真田啓介はネガティブにとらえているように解説からは受け止めましたが、個人的にはこの犯人の設定、気に入っています。)

「救いの死」 (世界探偵小説全集)も、読み返してみるかな??


<蛇足1>
「その事件は、新聞に『ホースガーズ・パレード広場で衛兵ならぬ死者が行進』という見出しを授けてくれた。」(7ページ)
第一文から、あまりにも直訳すぎて、意味が一瞬わかりませんでした。
論創ミステリの翻訳のまずさは、引き続き快調のようです(変な表現ですが)。

<蛇足2>
「車はのろのろ走り出しましたが、エンジンは点火していませんでした。寒さのせいでしょう」(13ページ)
エンジンに点火せずに、車が走り出すのですね。
場所は、原題がもじりになっていることからわかるように、ホース・ガーズのあたりですから、坂道ではありません。不思議。

<蛇足3>
「私設車道を縁取る芝生部分を踏みながら、コーンフォードは屋敷のそばまで近づいた。」(48ページ)
立派なお屋敷に関する部分です。
私設車道、という訳語が使われていますが、わかりやすくていいなと思いました。
以前 P・D・ジェイムズ の「死の味」〈上〉〈下〉 (ハヤカワ・ミステリ文庫)感想で触れたドライブウェイの訳も、この私設車道というのを使えばよかったかも、ですね。

<蛇足4>
「地下鉄のセント・ジェームズ・パーク駅ですか?」
「そうだ。そこで午後十時十五分過ぎに、白髪まじりの鬚をもじゃもじゃ生やした、黒っぽい帽子にレインコート姿の男が、発券所の窓口で駅員に目撃されている。その人物はアールズ・コート駅までの切符を購入した。」
「しかし、午後十時二十五分頃に、セント・ジェイムズ・パーク駅を去った乗客の中に乗車券を失くした男がいて、テンプル駅からの乗車賃を払ったそうだ。切符を失くしたからとすんなり料金を払っている。支払いを済ませると、男は急ぎ足で立ち去った──切符回収係の記憶にあるのは、そいつがレインコートを羽織っていたことだけだ。ここでまた推測となるが──その十分のあいだに、男はトイレでつけ鬚を取り外していたのではないだろうか。」(84ページ)
現在セント・ジェイムズ・パーク駅には、乗客の利用できるトイレはありませんが、当時はあったのですね。おもしろいです。

<蛇足5>
「でも、素人探偵だか人間の本質を学ぶ学生だか──あるいは古めかしく言うところの野次馬に復帰する気なら、それなりに手は尽くさないとね」(179ページ)
この文章自体あまり意味がよくわからないのですが、さておき、野次馬に「古めかしい」という形容をつけているにびっくりしました。そんな古めかしいですか?

<蛇足6>
「秀逸な推理だ。いかにも南米的な血生臭い香りがするぞ」(185ページ)
「南米的な血生臭い」とは南米の人が怒り出しそうないいぶりですが、当時のイギリスの認識はそうだったのでしょうね。

<蛇足7>
「メリマンはふたたび外出し、自家用車を停めている近所の駐車場まで歩いて行った。週末までに洗車を頼んでおこうと思いついたのだ。
 その駐車場の利用者は大半がセント・ジェームズ駅近辺の住人で占められていた。メリマンが着いたとき、手の空いた作業員は一人もいないようだった。」(203ページ)
イギリスの作品の訳でよく見られるのですが、こいう場合の駐車場は(おそらく原語は garage = ガレージ)、むしろ修理工場とかが近いと思われます。

<蛇足8>
「そして──その男はヘンリーの頭を殴った──サンドバックかゴム製のステッキか、その手の道具だったと思います。それはエドガー・ウォーレスとか、その辺りの推理小説作家に訊いてちょうだい。」(305ページ)
非難めいた調子かどうかは定かではありませんが、こういう言い方だとエドガー・ウォーレスの位置づけはあまりよくなさそうですね。


原題:Corpse Guards Parade
著者:Milward Kennedy
刊行:1929年
訳者:西川直子


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