凶鳥の如き忌むもの [日本の作家 三津田信三]
<裏表紙あらすじ>
瀬戸内海の兜離(とり)の浦沖に浮かぶ鳥坏島(とりつきじま)。鵺敷(ぬえじき)神社の祭壇“大鳥様の間”で巫女、朱音(あかね)は神事“鳥人の儀”を執り行う。怪異譚蒐集の為、この地を訪ねた刀城言耶の目前で、謎の人間消失は起きた。大鳥様の奇跡か? 鳥女(とりめ)と呼ばれる化け物の仕業か? 『厭魅の如き憑くもの』に続く“刀城言耶”シリーズ第二長編待望の刊行。
「厭魅の如き憑くもの」 (講談社文庫)に続くシリーズ第2作です。
第3作の「首無の如き祟るもの」 (講談社文庫)、第4作の「山魔の如き嗤うもの」 (講談社文庫)、そして第5作で第1短編集の「密室の如き籠るもの」 (講談社文庫)が先に文庫化されていました。
この「凶鳥の如き忌むもの」がなかなか文庫にならなかったので、待ちきれなくて先に「首無の如き祟るもの」 を読んじゃっいました(ブログの感想へのリンクはこちら)。
今回とりあげるテーマは人間消失。
シリーズ恒例のトリック談義も第十章に「人間消失の分類と方法」としてあります。事件はほとんどそれ一本なので、人間消失に的を絞った作品構成になっています──誤解のないように申し上げておきますが、過去と現在二度にわたる「鳥人の儀」の最中の人間消失以外にも事件は起こります。人間消失というテイストをいずれの事件ももっているので、一本、ととらえています。
「鳥人の儀」での失踪の真相というかアイデアは、わりと一般的というかよく知られている事柄だと思いますし、そのためのあからさまなヒントも差し出されていますので、宗教的儀式という側面から思えば、解決前に真相に思い至る読者も多いと思います。
ただ、知られている割には、というか、ミステリとして取り上げるのがきわめて難しい題材だとも感じますので、それをこうやって本格ミステリのカタチで料理してしまった作者の腕には、惚れ惚れしてしまいました。
このシリーズの特有の民俗的な部分にマッチした、異様な迫力を備えた作品になっています。
中身としては、なにより、非常に苛烈な部分があるので、それを成し遂げた犯人(?)の意志の力に圧倒されます。それほどまでに、思うところがあったのか...と。
某鮎川哲也賞受賞作を読んだときのことをふと思い出しました。今考えてみると、乱歩賞受賞作にも似たような読後感を持ったものがありましたね。
シリーズの中では、控えめな評価になっている作品のようですが、十分立派な作品だと感じ入りました。
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