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夏雷 [日本の作家 大倉崇裕]


夏雷 (祥伝社文庫)

夏雷 (祥伝社文庫)

  • 作者: 大倉 崇裕
  • 出版社/メーカー: 祥伝社
  • 発売日: 2015/07/24
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
東京月島の便利屋倉持のもとに、北アルプスの名峰槍ヶ岳に登れるようにしてほしいという初老の依頼人山田が訪れた。ずぶの素人が必死の体力トレーニングを続ける真の目的とは? 丹沢、奥多摩と試登を続ける二人に謎の尾行者が迫り、“槍”挑戦への行程を早めた直後、山田が消えた! 一度は山を捨てた倉持の、誇りと再生を賭けた闘いの行方は!? 山岳サスペンスの傑作!


2023年8月に読んだ最初の本です。
大倉崇裕の「夏雷」 (祥伝社文庫)
山岳ミステリ──と引用したあらすじには書いてあり、ハードボイルドテイストで、大倉崇裕の山岳ミステリでは、以前感想を書いた「白虹」 (PHP文芸文庫)(感想ページはこちら)に近いですね。

主人公である便利屋倉持の視点で物語は綴られます。
ずぶの素人なのに、山に登れるようにしてくれ、という山田からの依頼。詳しい事情を明かすことを強く拒む山田。
山田からは明かされませんが、この依頼そのものの大まかなイメージについての見当はわりとすぐについてしまうのではないかと思います。この依頼にリアリティがあるととるかどうかが、最初の分かれ目のような気がします。
狙いを倉持に伏せる強い必要性が感じられない点は難ありという気もしていますが、この依頼そのものはぼくはありだと思いました。

なんだかんだで山田に入れ込んでいく倉持、という流れも感傷的ながらいいですよね。
ただ、ラスト近くで「涙があふれてきた。」(496ページ)というのは、やりすぎだと思いましたが。

山岳ミステリというには山岳シーンが少ない印象があり(なにしろその準備というのが依頼ですから)、山のシーンは読んでいて楽しいので、もっともっと濃密に山岳シーンが欲しかったという無理な希望を抱いてしまうくらい、山岳シーンがステキでした。
この作品、非常に構図の美しいハードボイルドになっていまして、とても楽しく読みました。
大倉崇裕は山岳ミステリーもとても面白い!


ところでこの作品、謎解きでちょっと納得できない部分があるのです。
ネタバレになりますが、書いておきます。

<以下ネタバレなのでご注意ください>
「遺体から証拠が出たのよね。優紀さんを……殺した」
「折りたたみ式のナイフが、遺体のポケットに入っていた。特注品で、変わった刃型のものらしい。血がついていて、DNAも採取できた。優紀さんのものに間違いないとのことだ」(471ページ)
とされていて、宮田が優紀を殺した凶器を身につけたまま死にます。
自らの犯行がばれるので、優紀さんの遺体が発見されることを怖れていた宮田、ということなのですが、
「判っているのなら、さっさと回収すれば良かったじゃない」(472ページ)というセリフの通りで、宮田の行動は極めて不自然です。
このセリフのあとに
「宮田自身、遺体の在処を知らなかったとしたらどうだ?」(472ページ)
と続いて、さらに、
「マスコミなどは、優紀さんを殺害し遺棄したと言っているが、実際は手傷を負わせただけかもしれない。傷を負った優紀さんは、凶器のナイフが刺さったまま、山の中に逃げ込み、宮田は彼女を見失った。」(472ページ)
とされているのです。
宮田が優紀さんの遺体の在処を知っていたなら、ナイフをさっさと回収していないのがおかしい、
宮田が優紀さんの遺体の在処を知らなかったのなら、宮田がナイフを持っていたのがおかしい、
という状況で、これを解消するには、宮田は優紀さんの遺体の在処を知らなかったが、探しに行って首尾よく見つけた、という解釈になろうかと思いますが、こんな都合のいいことが土壇場で起こるというのは少々納得しにくい。
そして宮田に簡単に見つかったのであれば、ラストの感慨の興趣が薄れてしまう気がするのですが......






タグ:大倉崇裕
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