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福家警部補の再訪 [日本の作家 大倉崇裕]

福家警部補の再訪 (創元推理文庫)

福家警部補の再訪 (創元推理文庫)

  • 作者: 大倉 崇裕
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2013/07/21
  • メディア: 文庫

<裏表紙あらすじ>
しがない探偵から転身し上昇気流に乗った警備会社社長、一世一代の大芝居を自作自演する脚本家、天才肌の相棒と袂を分かち再出発を目論む漫才師、フィギュア造型力がもたらす禍福に翻弄される玩具企画会社社長――犯人側から語られる犯行の経緯と実際。対するは、善意の第三者をして「あんなんに狙われたら、犯人もたまらんで」と言わしめる福家警部補。百戦不殆のシリーズ第二集。


「福家警部補の挨拶」 (創元推理文庫)に続く福家警部補シリーズ第2弾です。
手元の記録によれば「福家警部補の挨拶」を読んだのが2010年。ずいぶん間が空いてしまいました。
このシリーズは順調に巻を重ねていまして、このあと
「福家警部補の報告」 (創元推理文庫)
「福家警部補の追及」(創元クライム・クラブ)
「福家警部補の考察」 (創元クライム・クラブ)
とすでに3冊刊行されています。

このシリーズは、あちこちで書かれているように倒叙物のミステリで、刑事コロンボの衣鉢を継ぐものです。
倒叙物。「まず犯人の側から完全と見える犯罪を描き、つぎにそれの暴露される経過を述べたものである(中島河太郎)」
と、神命明の解説で引用されていますが、いっぱい作例はありますね。
倒叙物三大名作というのが、
フランシス・アイルズ「殺意」 (創元推理文庫)
リチャード・ハル「伯母殺人事件」 (創元推理文庫)
F・W・クロフツ「クロイドン発12時30分」 (創元推理文庫)
神命明の解説で指摘されるまで気づいていなかったのですが、「三大名作は明らかに犯人側の行動・心理描写に重点を置いた倒叙形式の犯罪小説である」(374ページ)であって、『倒叙形式で描かれた「本格ミステリ」』(同)ではないですね。謎解きというより、サスペンス寄り。
確かにおっしゃる通りで、謎が解ける経緯を楽しむという感じではありません。
倒叙物の発端は、オースチン・フリーマンのソーンダイク博士物、ですが、こちらは謎が解けていく過程を楽しむものでしたから、「叙述の一形式」であるという倒叙物は応用が広いということでしょう。
三大名作はそれぞれとても面白いですが、でも、ミステリファンとしては、サスペンス寄りの作品も楽しみますが、謎解きを好ましく思ってしまいます。
という流れでいうと、この福家警部補シリーズは、正統派(?) の倒叙本格ミステリです。

この「福家警部補の再訪」には
「マックス号事件」
「失われた灯」
「相棒」
「プロジェクトブルー」
の4編収録。

この種の倒叙作品は、犯人サイドに感情移入(?) していっしょにハラハラするのが楽しいですね。
その意味でも、犯行が露見するきっかけが犯人のミスであることが望ましい。
これは鮎川哲也も指摘していたことですが、万全を期したはずが遺漏あり(犯人が知力を尽くしていれば防げたのに)、そこを福家警部補に突かれる、というのがいいです。偶然や犯人が知り得ないことが起因だと、すこし惜しい感じがします。だって、犯人もそうだと思いますが、「そんなの知らないよー」と読者としても言いたくなるのは残念ですから。
その観点で見てみると、「マックス事件」は明らかな犯人のミスで〇。しかも、あからさまにミスの手がかりが書かれています。
「失われた灯」はちょっと微妙な仕上がり、かな? 明らかに知らなかったことがキーになっていますから。初めてその「物」が出てくるときにあからさまにヒントを撒いておいてもらえればちょっとは印象が変わったかもしれません。
「相棒」は、犯人の知らなかったことが手掛かりとなっていますが、知らなかったとしてもストーリー的に知り得たのではないか、と思える内容で、そしてそれが犯人と相棒の置かれている境遇と密接に結びついているので、よく考えられているなぁ、と思いました。
「プロジェクトブルー」は、犯人の知らなかったことが手掛かりで、かつ、知り得たかどうかも微妙なのですが、その結果が犯人のフィギュア愛を追い詰める段取りになっていていいなあと思いました。

このシリーズは、貴重な正統派の倒叙本格ミステリなので、楽しみに続巻を読んでいきます!



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