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動く標的 [海外の作家 ま行]

動く標的【新訳版】 (創元推理文庫)

動く標的【新訳版】 (創元推理文庫)

  • 作者: ロス・マクドナルド
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2018/03/22
  • メディア: 文庫

<裏表紙あらすじ>
ある富豪夫人から消えた夫を捜してほしいという依頼を受けた私立探偵のリュー・アーチャー。夫である石油業界の大物はロスアンジェルス空港から、お抱えパイロットをまいて姿を消したのだ! そして、10万ドルを用意せよという本人自筆の書状が届いた。誘拐なのか? ハードボイルド史上不滅の探偵初登場の記念碑的名作。


ロス・マクドナルドに関しては忠実な読者ではなく、これまでに読んだのは、
「さむけ」 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
「ウィチャリー家の女」 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
の2冊だけです。
もっともほかの作品を読もうと思っても絶版・品切れ状態なので、読めないのですが。
そんななか、この「動く標的」 (創元推理文庫)の新訳が出て(しかも訳者が田口俊樹!)、かつ、この本はリュー・アーチャー初登場というターニングポイントにある作品でもあるので、即購入。
読んでみて、すごくタイトに仕立て上げられた作品だなと感じました。
ハードボイルドというジャンルに属する作品だと思いますが、普通に犯人捜しとしても楽しめるようにできています。
解説で柿沼瑛子が
「この作品を初めて読んだときは、どことなく陰鬱な印象があったのだが、今回あらためて新訳で読むと、閉塞感の中にも、風が吹いているような、前方が開けているようなスピード感がある。」
と指摘していますが、犯人捜しの軸がくるくると回っていくところがスピード感につながっているのかもしれません。

冒頭、リュー・アーチャーがお屋敷に呼ばれます。
場所はサンタテレサのカブリロ渓谷を見下ろす丘の上。そこでは脚を悪くした夫人がいて...
おいおい、浜田省吾(「丘の上の愛」)かよ、と少し思ってしまいましたが、それは余談。
夫が姿を消した、というところから、誘拐を思わせる展開となり、怪しいバーの関係者とか、往年の名女優とか、芽の出ないピアニストとか、翳のある人物がわんさか出てきて、さてさてどこに連れていかれるのかな、と思わされます。

タイトルの「動く標的」というのは、どういう意味だろう、と昔から気になっていたのですが、英語にすると、Moving Target。あら、単純...こんなことに気づかなかったとは。
作中では、
「キャディラックでこの道を時速百五マイルで走ったことがある」
続けて
「退屈なときにやるのよ。何かに出会えるかもしれないって自分に言い聞かせて。何かまったく新しいことにね。道路上にあって、剥き出しで、きらきらしていている、いわば動く標的」(161ページ)
とキーとなる人物の一人、富豪の娘ミランダが言うシーンがあります。
ミランダのこのセリフを受けた形で
「だから私には剥き出しで、きらきらしているようなものが必要なのさ。路上の動く標的みたいなものが」(168ページ)
とリュー・アーチャーが話しますが、リュー・アーチャーが求めているものが動く標的、ということだけではなく、作中人物それぞれが何かを求めている、ということを指しているのでしょうね。


<蛇足1>
「十万ドル分の債権を現金にするように言ってきたのよ」(85ページ)
ここ、原文はどうなっているのでしょうね?
通常、すぐに現金化できる「さいけん」と言えば債券、ですが、債権も現金化する方法がないではありませんので。


<蛇足2>
「この街(サンタテレサ)じゃ金は生きていく上で欠かすことのできない血のようなものだ。ここじゃ金がなければ、半分死んでいるようなものだ」(341ページ)



原題:The Moving Target
作者:Ross McDonald
刊行:1949年
翻訳:田口俊樹




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