SSブログ
日本の作家 大倉崇裕 ブログトップ
- | 次の10件

聖域 [日本の作家 大倉崇裕]


聖域 (創元推理文庫)

聖域 (創元推理文庫)

  • 作者: 大倉 崇裕
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2011/07/09
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
安西おまえはなぜ死んだ? マッキンリーを極めたほどの男が、なぜ難易度の低い塩尻岳で滑落したのか。事故か、自殺か、それとも――。三年前のある事故以来、山に背を向けて生きていた草庭は、好敵手であり親友でもあった安西の死の謎を解き明かすため、再び山と向き合うことを決意する。すべてが山へ繋がる、悲劇の鎖を断ち切るために! 話題を呼んだ著者渾身の山岳ミステリ。


山岳ミステリです。
山岳ミステリというと、冒険小説風、冒険ミステリ風のものが多い印象で、謎解きミステリに仕上がっているのは珍しいように思います。
山をめぐる部分が、ミステリとしての謎解きと一体となっているところは大きな長所だと思いました。
山におけるルール(?)とか人間関係が謎解きに大きな役割を果たしているのが素晴らしい。
山に登ったことのない人間にも、それらのことがきちんとわかるようになっています。
主人公の職場での人間関係などがあまりにも図式的なのはもう一工夫ほしかったなぁ、と思いますが、一方でそのおかげですんなり頭に入ってくるのも事実で、きちんと計算されているのだなぁ、と感じます。

ただ、山岳ミステリといえばやはり山登りのシーンが注目点だと思うのですが、正直そちらの方は迫ってきませんでした。
山登りの概念というか、輪郭というかは理解できた(か、あるいは理解できたつもりになった)のですが、肝心の山登りそのものの緊迫感や楽しさというものは、今一つピンとこなかった。
大学時代は「勉強などほとんどせず、山にばかり登っていた」という作者のことですから、いくらでも書き込めるでしょうに、おそらく、全体のバランスと作品の狙いを考えて、また、山登りに不案内な読者のことを考えて、抑制的に山登りのシーンを描かれたからなのではないかと思います。
この後も、「生還 山岳捜査官・釜谷亮二」 (ヤマケイ文庫)「白虹」(PHP研究所)「夏雷」(祥伝社)「凍雨」(徳間書店)と山岳ミステリを書きついでいる作者ですから、一度、抑制なんかせず、山に淫したような山登りシーン満載の本格ミステリを書いてみてほしいです。意外と(?)、バランスも読者もついてくるものなのではないでしょうか(作者の山岳ミステリを読むのはこの「聖域」 が初めてなため知らないだけで、もうすでにそういう作品を書いておられるかもしれませんが)。

あえて山岳シーンへの不満も書き込んでしまいましたが、これは作者が大倉崇裕であるがゆえの贅沢な望みを書いちゃっただけで、本作は非常にウェルメイドな山岳ミステリです。
作者のその他の山岳ミステリも、楽しみに読んでいきます。




nice!(7)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

オチケン! [日本の作家 大倉崇裕]


オチケン! (PHP文芸文庫)

オチケン! (PHP文芸文庫)

  • 作者: 大倉 崇裕
  • 出版社/メーカー: PHP研究所
  • 発売日: 2011/11/17
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
大学に入学早々、廃部の危機に瀕したオチケン(落語研究会)に無理やり入部させられた越智健一。そこで待ち受けていたのは、幽霊が出るという噂の古い部室と、風変わりな二人の先輩だった。落語なんてまったく知らない上、先輩たちに振りまわされ、必修科目の出席もままならない。あげくはサークル間の陰謀に巻き込まれて……。ユーモアと落語のウンチク満載の中篇二篇を収録した連作ミステリー。

大倉崇裕は落語雑誌の編集長牧を探偵役としたシリーズが知られています。
「三人目の幽霊」 (創元推理文庫)
「七度狐」 (創元推理文庫)(ブログへのリンクはこちら
「やさしい死神」 (創元推理文庫)(ブログへのリンクはこちら
上の3冊が出ています。
本書「オチケン!」 は、その大倉崇裕が理論社からYA(ヤングアダルト)向けに出した落語ミステリです。
タイトル通り、落語研究会が舞台で、主人公は越智健一なので、オチケン。なんて、ベタな語呂合わせ。
部室獲得をめぐるやりとりがメインとなった、日常の謎の学園ミステリです。
ミステリ度はマイルドですが、ミステリと落語がほどよくブレンドされていて、いい感じです。
YA向けだけど若い読者だと、尖ったものに惹かれがちですから、かえって、謎解きが物足りない、と不満をもつかもしれませんね。でも、この絶妙のバランスが心地よい。
付録として、「落語ってミステリ!?」という、エッセイも収録されていて、これもとても楽しいです。
nice!(5)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

やさしい死神 [日本の作家 大倉崇裕]


やさしい死神 (創元推理文庫)

やさしい死神 (創元推理文庫)

  • 作者: 大倉 崇裕
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2011/03/17
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
死神にやられたとの言葉に首をひねる表題作を皮切りに、先行きを危ぶまれていた噺家二人が急に上達する「無口な噺家」、元名物編集長の安楽椅子探偵譚「幻の婚礼」、牧&緑コンビ定番の張りこみで決する「へそを曲げた噺家」、『幻の女』ばりに翻弄される「紙切り騒動」の五編を収める。編集長に頼ってばかりはいられない、間宮緑探偵孤軍奮闘の巻も微笑ましい、好評シリーズ第三弾。

先日アップした「木洩れ日に泳ぐ魚」 (文春文庫)までが6月に読んだ本で、この「やさしい死神」からが今月読んだ本となります。

「三人目の幽霊」 (創元推理文庫)
「七度狐」 (創元推理文庫)
に続くシリーズ第三弾。
長編だった「七度狐」 は、芸に憑かれた落語家たちを描いていましたが、この「やさしい死神」は人情話集とでもいった趣。
落語にもいろいろなパターンがあるように、落語ミステリにもいろいろなパターンがある、ということでしょうか。
帯についている惹句がステキで
「落語には笑いも涙もあるけれど何といっても謎解きがあるのです」
というもの。
もうひとつ
『「落ち」が見えない面白さ』
という方は、勇み足でしょうか。いずれの作品も、ラストの見当はつきやすいですから。ただ、その分、人情話としての側面が一層色濃く立ち上がることになっていますので、そういうバランスで作者は作品を設計したということでしょう。悪人の登場しない世界観は、ある意味落語にぴったりですもんね。
シリーズは、このあと途絶えているようですが、また復活することを期待します。
nice!(11)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

警官倶楽部 [日本の作家 大倉崇裕]


警官倶楽部 (祥伝社文庫)

警官倶楽部 (祥伝社文庫)

  • 作者: 大倉 崇裕
  • 出版社/メーカー: 祥伝社
  • 発売日: 2010/03/11
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
二人の制服警官が悪徳宗教団体の裏金運搬車を襲撃した! だが、彼らは本物の警官ではなかった。鑑識、盗聴、銃撃など、本職顔負けの技を持つ警察愛好家サークルの一員だったのだ。ひたすらに警察と正義を愛する善良なオタクたちがなぜ強盗を!? さらに現金奪取直後、仲間の息子が誘拐されて……。ハートは本物より熱い異色の「警察」小説、ここに登場。

「無法地帯 ― 幻の ? を捜せ!」 (双葉文庫) の姉妹品でしょうか? あちらは食玩を愛するマニアでしたが、今度は警官/警察マニア。 マニアというよりは、オタクというべきかな?
本物よりも本物らしい、というか、本物より熱意ある(?)彼らの活躍がとてもおもしろい。
日本では私立探偵を含めて素人が事件を捜査するのは無理がある、というのはミステリがよく受ける指摘ですが、こういうかたちで素人が活躍する可能性を切り開いた点はすごいなぁ、と感心しました。
事件のほうも実力派(?)の主人公たちにあわせたのか盛りだくさんで、多くの登場人物を織り込んだプロットになっています。しっかりしたプロットを背景に、コメディタッチの活劇が繰り広げられる作品です。
誘拐に関して、ゲームみたいだ、というセリフも出てきますが、誘拐という卑劣な犯罪であっても、怪しげな宗教団体とか、悪徳高利貸しとかを登場させても、後味が悪くないのはポイント高いと思います。
続編があってもおかしくないラストになっていますので、ぜひ続編を書いてもらいたいです。

タグ:大倉崇裕
nice!(2)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

七度狐 [日本の作家 大倉崇裕]


七度狐 (創元推理文庫)

七度狐 (創元推理文庫)

  • 作者: 大倉 崇裕
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2009/07/05
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
静岡に行ってくれないかな―北海道出張中の牧編集長から電話を受け、緑は単身杵槌村へ取材に赴く。ここで名跡の後継者を決める口演会が開かれるのである。ところが到着早々村は豪雨で孤立無援になり、関係者一同の緊張はいやが上にも高まる。やがて後継者候補が一人ずつ見立て殺人の犠牲に……。あらゆる事象が真相に奉仕する全き本格のテイスト、著者初長編の傑作ミステリ。

「三人目の幽霊」 (創元推理文庫) に続くシリーズ第2弾は、長編です。

扉のあらすじが裏表紙とかなり違っているので、そちらも引用しておきます。
落語と無縁だった間宮緑も職場に定着し、牧大路編集長の透徹した洞察力に舌を巻きつつ落語編集道を驀進中。夏のある日、緑は春華亭古秋一門会の取材を命じられ、静岡の杵槌村を訪れる。この会は、引退を表明している当代古秋が七代目を指名する、落語界の一大関心事だ。開始直前、折からの豪雨に鎖され陸の孤島と化した村に見立て殺人が突発。警察も近寄れない状況にあっては、名探偵の顔を持つ牧も電話の向こうで苛立ちを募らせるばかり。やがて更なる事件が……。犯人探しと名跡の行方、宿悪の累が相俟って終局を迎えたそのとき、全ての謎が解ける!

襲名にかかる跡目争いを軸にしたミステリです。
ミステリ的にはたいへん贅沢に趣向をいっぱい盛り込んでいます。「嵐の山荘」「見立て殺人」「安楽椅子探偵」そして、新本格ミステリではよく取り上げられるあのテーマ(ネタばれにつき明示しません)。杵槌村は四十五年前、先代古秋が行方不明になった場所だ、という因縁話的な要素も加味されています。
落語ということでは、タイトルにもなっている「七度狐」という話が見立てにも利用されています。実際の落語「七度狐」は騙しの回数が7回ないのに、この作品ではきちんと7回騙すバージョンを作っていて、落語が好きだとより一層楽しいのでしょうね。落語に知識がなくとも、もちろん、ミステリとしては問題ありませんので、安心して読んでください。
芸に魅入られた落語家たちを描いており、殺人事件で兄弟が殺されていても、襲名のかかった一門会のために稽古を続ける姿などはその象徴かと。一般人にはちょっと考えられないような入れ込み方ですが、それだけ芸は奥深いということなのでしょう。こういったことを踏まえて明かされる真相も、業を感じます。
最後のエピローグもなかなか余韻を残して印象的でした。

「本格ミステリ・ベスト10 2004」第4位です。

nice!(1)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:
- | 次の10件 日本の作家 大倉崇裕 ブログトップ