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御手洗潔と進々堂珈琲 [日本の作家 島田荘司]


御手洗潔と進々堂珈琲 (新潮文庫nex)

御手洗潔と進々堂珈琲 (新潮文庫nex)

  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2015/01/28
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
京都の喫茶店「進々堂」で若き御手洗潔が語る物語(ミステリー)。
進々堂。京都大学の裏に佇む老舗珈琲店に、世界一周の旅を終えた若き御手洗潔は、日々顔を出していた。彼の話を聞くため、予備校生のサトルは足繁く店に通う――。西域と京都を結ぶ幻の桜。戦禍の空に消えた殺意。チンザノ・コークハイに秘められた記憶。名探偵となる前夜、京大生時代の御手洗が語る悲哀と郷愁に満ちた四つの物語。『進々堂世界一周 追憶のカシュガル』改題。


「進々堂ブレンド 1974」
「シェフィールドの奇跡」
「戻り橋と悲願花」
「追憶のカシュガル」
の4編収録の短編集です。

冒頭の「進々堂ブレンド 1974」は導入編。
ヴィックスの喉スプレーをきっかけに、予備校生のサトルの高校時代の思い出が語られます。
進々堂は、京大の北門近くに昔からある、昔ながらの喫茶店で、何度か行ったことありますね。今もあるのでしょうか?

そのあとは京大生時代の御手洗潔が、さらに振り返って自分が見聞した物語を予備校生に語って聞かせる、というフォーマットになっている異色の短編集です。

「シェフィールドの奇跡」は、脳性麻痺で学校ではいじめられっ子だったイギリスの少年が、周りの抵抗を受けながらも、重量挙げに活路を見出す話。

「戻り橋と悲願花」は、第二次世界大戦で皇民化教育を受け、日本へ渡ってつらい体験をした韓国人の話。風船爆弾で運ばれて(伏字にしておきます)ロサンゼルスで咲き誇る曼殊沙華の群生のイメージが鮮烈です。

「追憶のカシュガル」は、シルクロードの西域のウイグル族の街カシュガルで出会った、きれいなブリティッシュ・イングリッシュを話す嫌われ者の白いひげの老人の戦争のころの昔話。
「東洋文明と西洋文明の交差点」「南からのイギリス、北からのロシア、戦争と平和、友情と猜疑心が交錯する場所」と御手洗潔が説明するカシュガルの様子を垣間見ることができます。
印象的だったのは、冒頭の桜のエピソードでした。
昔の日本では、桜よりも梅が人気があった、花といえば梅だったというのは知識として知っていたのですが、ソメイヨシノの特異性については、ぼーっとしていました。
「どの木も葉っぱが全然なくて、すべての枝、木全体が白い花でびっしり埋まっている。真っ白だぜ。どの木もどの木もみんなそうだ。ぜんぶ同じ。」
「サクランボが生らない」(215ページ)
「こんなにすごい数の花があるのに、実が生ることはまれなんだ」「この木は子孫を残せない」(216ページ)
確かに......
駒込の染井村にできたたった一本の桜(ソメイヨシノ)を、接木で増やしていった......(216ページ~)
「これらは全部コピーなんだよ」
「こういうのをクローンというんだ」
「江戸の染井むの植木職人がたまたま探り当てた、たった一本の狂い咲きの桜だよ。それが人間の手で何十万本にも増やされて、人の手で日本全国に広がり、大増殖した、これが桜の持つ秘密だ」(220ページ)
なんだか、桜を見る目が変わってしまいそうです......

いずれの話も、ミステリというよりは、物語、お話といった趣で、だからこそ逆に御手洗潔ファンにはたまらないかもしれません。


<蛇足>
「追憶のカシュガル」で、ソメイヨシノについて何度か「狂い咲き」という表現がとられています。
異様な花の量を指して言っているものと思われますが、一般的に「狂い咲き」というのは、季節外れに咲く場合を指すので、通常とは違う使い方をあえてしているのでしょうね。おもしろいです。




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コメント 2

そら

進々堂!懐かしいです。2年程前までは存在してました。100年後も存在してそうな佇まいでした。しょっちゅう行ってました。
進々堂さんがモデルっぽい小説も出てますよね。タレーラン?もかな。
御手洗潔さん大ファンです!ご紹介ありがとうございます。コレは是非に。
by そら (2020-12-18 17:14) 

31

そらさん、ご訪問&nice! とコメントありがとうございます。
御手洗潔が京都大学出身で、進々堂にも行っていた、というのがとても興味深かったです。
またよろしくお願いいたします。
by 31 (2020-12-21 20:09) 

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