最後の一球 [日本の作家 島田荘司]
<裏表紙あらすじ>
母親の自殺未遂の理由が知りたい――青年の相談に、御手洗潔はそれが悪徳金融業者からの巨額の借金であることを突き止める。裁判に訴えても敗訴は必至。さすがの御手洗も頭を抱えたが、後日、奇跡のような成り行きで借金は消滅。それは一人の天才打者と、生涯二流で終わった投手との熱い絆の賜物だった。
御手洗潔が登場する作品ですが、本格ミステリとして読者に挑んでくるものではなく、事件の背後にある人間ドラマを読者に差し出してくる、そんな作品です。
悪徳金融業者をめぐる事件がまさに奇跡のように決着するまでが82ページ。
そこからは、貧しい中で野球をがんばった人物・竹谷亮司の手記になります。
さて、どうつながるのかなぁ、と思いながら読むわけですが、そんなことどうでもよくなるくらい、この野球人生に引き込まれました。
ミステリ的な仕掛けは単純で、すぐにピンとくると思いますが、物語の楽しさのおかげで、欠点とは感じられませんでした。
実際、読者は竹谷の手記を読むので全体を見渡すことができますが、作中人物はこの手記が読めないので、82ページまででそれなりの説明を御手洗が一応しますし、不思議だなぁ、というだけのことになっているのでしょう。
それにしても御手洗潔、現場だけでこの手記のおおよそのラインをつかんだのでしょうか? おそるべし、というか、さすが、というか。
この手記の内容であれば、ミステリに仕立てなくてもよかったのではないか、という意見もありえますが、また、御手洗潔ものにしなくてもよかったのではないか、という意見も同様にありえますが、“奇跡”を現実にする手つきはやはり島田荘司ならではだと思いますし、このストーリーの場合一瞬で背景を見抜く目が必要ということもあって、この形がよかったのではないでしょうか。
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