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陀吉尼の紡ぐ糸 [日本の作家 藤木稟]

陀吉尼の紡ぐ糸―探偵SUZAKUシリーズ〈1〉 (徳間文庫)

陀吉尼の紡ぐ糸―探偵SUZAKUシリーズ〈1〉 (徳間文庫)

  • 作者: 藤木 稟
  • 出版社/メーカー: 徳間書店
  • 発売日: 2022/10/10
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
昭和九年浅草、吉原・弁財天。神隠しの因縁まつわる古木「触れずの銀杏」の側に、ぐったりと座る老人の姿があった。しかし……、様子がどこか変だ。顔がこちらを向いているのに、同時に背中もこちらを向いている。つまり、顔が表裏逆さまについているのだ! そして老人の手が、ゆらりと動く。まるで手招きするように……。盲目の探偵・朱雀十五、初見参。全面加筆訂正による、文庫改訂新版!


2022年5月に読んだ最初の本です。
同じ作者藤木稟の「バチカン奇跡調査官 黒の学院」 (角川ホラー文庫)感想にもちらっと書いたのですが、この「陀吉尼の紡ぐ糸」 (徳間文庫)は以前一度読んでいます。ただ、そのときはピンと来ませんでした。
バチカン奇跡調査官シリーズを読み進めていき、かなり感心しましたので、こちらも再読してみようかな、と。
この探偵朱雀十五シリーズも角川文庫に収録されるようになっています。
ぼくの読んだのは、旧版すなわち徳間文庫版です。
角川文庫版の書影も掲げておきましょう。


陀吉尼の紡ぐ糸 探偵・朱雀十五の事件簿1 (角川ホラー文庫)

陀吉尼の紡ぐ糸 探偵・朱雀十五の事件簿1 (角川ホラー文庫)

  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2012/10/25
  • メディア: 文庫


探偵役をつとめるのは、美形の盲目の朱雀十五。
「美貌な容姿に惑わされていたが、まったく本郷から聞いた通りの性根の悪いだ。この容姿にこの性格では、ほとんど存在自体が詐欺である。」(136ぺージ)
と視点人物であるワトソン役の柏木に言わしめる人物。
ちょっと作りすぎな気もしますが、エンターテイメントとしては手堅い印象です。

タイトルにもなっている陀吉尼天は、ちょくちょくミステリに登場しますね。
「陀吉尼天とは胎蔵界曼陀羅外院南方の傍らに四天衆として侍座する大黒天の眷属夜叉だ」(160ページ)
「人の死を六ヵ月前から予知する能力や通力自在を備えて空を飛び回り、人の肉、特に肝を食らうとされる凶悪な鬼だよ。だから食人肉神と呼ばれている。そのくせ姿形だけはどんな男も虜にするほど美しい女神だそうだ。」(161ページ)
「陀吉尼天は狐を眷属とすることから、後に同じく狐を眷属としている稲荷神と同一視され、さらに稲荷と神仏習合によって同一神となった弁財天と同一視されるようになった。」(161ページ)
と説明され、後の方で
「陀吉尼天信仰というのは有名な邪教を生み出している」
「日本屈指の邪教、立川真言流……聞いたことはないかね?」(217ページ)
と付け加えられています。

吉原、弁財天、軍部の暗躍。出口王仁三郎まで登場するのです。
藤木稟もデビュー作ということでがんばって盛り込んだのだと思いますが、これはいくらなんでも欲張りすぎでしょう。
力技による(ミステリとしての)解決は好もしく、共感できたのですが、全体として未整理というか、とっ散らかった印象をぬぐい切れませんでした。
思い切って題材を絞り込んだほうがよかったのではないでしょうか?

とはいえ、これはシリーズの第1巻。未整理だった部分がこのあと展開されていくことも考えられます。
シリーズ全体の伏線であることを祈りつつ、続きを読むのが楽しみです。


<蛇足1>
「鐘を鳴らして街電が停車する」(6ページ)
街電? 同じページの中頃に
「市電の線路が走る大通りでは」という記述が、さらに次のページの最初の方には
「市電の運転手といえば、昨今のスタァ職業なのである。」
という記述もあり、市電のことを街電と呼んだりもしたのでしょうか?

<蛇足2>
「例えばだね、岡っ引きという組織があるだろう? 彼らはどは原則的に給料を幕府から貰っていない。何処から給料が支払われているかと言えば、吉原だったんだ。」(115ページ)
「そうしてこの岡っ引き達の大スポンサーが吉原だったんだ。大捕り物が吉原で多いのはそういうことさ。犯罪の巣窟になりやすい娼婦街だからね、自衛の為にも………それから幕府に恩を売って、存在の必要性を感じさせるためにも、政治的取引をするためにも、吉原は江戸の犯罪捜査を負担したんだよ。」(115~116ページ)

<蛇足3>
「一応、僕と君の風体は伝えてあるが、自動電話の側に立って朝日新聞が目印ということにしてある」(178ページ)
自動電話、が分りませんでした。交換手を介さず直接相手にかけられる電話のことを指すようですね。

<蛇足4>
「なにしろもともと枕の『ま』は魂という意味があって、寝ている間に魂を入れておく蔵という意味で『まくら』と言う」(212ページ)
知りませんでした。興味深いです。

<蛇足5>
「先生が言うところによると君にはタンキ―の素養があると言う、何しろ異界の女が藤原隆を連れていく夢だったんだろう?」(223ページ)
タンキ―? 中国、台湾のシャーマン、霊媒師のことを指すようです。

<蛇足6>
「藤原家の子息・秀夫が誘拐されて二十四時間が経過した。人質の安否を気遣って報道規制が敷かれているため、誘拐事件は表沙汰にはなっていない。」(353ページ)
この物語の時代背景である昭和初期には、誘拐事件に係る報道規制はなかったのではないかと思うのですが。
1960年の "雅樹ちゃん事件" を契機にできたものだと思っていました。

<蛇足7>
「まったく怪人二十面相も真っ青というやつだ。」(356ページ)
江戸川乱歩の「怪人二十面相」 (ポプラ文庫クラシック)が発表されたのは Wikipedia によると昭和11年。この作品の設定より後です。
なので、きっと、朱雀十五シリーズの作品世界は怪人二十面相が実在する世界なのでしょうね。





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