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レディ・ヴィクトリア ロンドン日本人村事件 [日本の作家 篠田真由美]


レディ・ヴィクトリア ロンドン日本人村事件 (講談社タイガ)

レディ・ヴィクトリア ロンドン日本人村事件 (講談社タイガ)

  • 作者: 篠田 真由美
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2017/03/22
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
 ミカドの持ち物だったと騙る「翡翠の香炉」詐欺。日本人村の火災と焼け跡から発見された死体。そして記憶喪失の日本人青年。
 日本趣味(ジャポニズム)が人気を集めるロンドンで起きた日本に関連する三つの事件にレディ・シーモアとチーム・ヴィクトリアの面々が挑む。
 ヴィクトリア朝のロンドンを舞台に天真爛漫なレディと怜悧な男装の麗人、やんちゃな奉公人が活躍する極上の冒険物語。


読了本落穂拾いです。
「レディ・ヴィクトリア アンカー・ウォークの魔女たち」 (講談社タイガ)(感想ページはこちら
「レディ・ヴィクトリア 新米メイド ローズの秘密」 (講談社タイガ)(感想ページはこちら
に続くシリーズ第3弾です。
先に
シリーズ第4弾の
「レディ・ヴィクトリア 謎のミネルヴァ・クラブ」 (講談社タイガ)(感想ページはこちら
の感想を先に書いてしまっています。

サブタイトルにもあるように、題材としてロンドンにあった日本人村を扱っています。
1885年。時折しも、ジャポニズムが流行し、サヴォイ劇場でオペラ「ミカド」が上演され、ナイツブリッジで「日本人村」が開催・興行されていた。
当時どう日本が受容され、あるいは受容されなかったか、というのは興味深いです。
当時の日本は、関税自主権の回復や不平等条約の改正に意欲を燃やしていたというのは歴史の授業で学ぶことで、この点をレディ・ヴィクトリアと知人が議論するのは少々作者の勇み足のような気がしますが、ジャポニズム旺盛ななか、それに反発する日本人という構図を溶け込ませるのに一役買っていますね。
勇み足といえば、このストーリーで重要な役どころで出てくる日本人青年山内鹿之助伸直とローズの関係性といのも勇み足でしょうね。この種の物語に必須のといってもいいかもしれない展開ではありますが。
ただ、それがミステリとしてのストーリーにきちんと寄り添うものである点は指摘しておかなければなりませんね。

印象的なのはある主要人物のセリフです。
「それで本当に後悔はなさらなくて?」
「わかりませんわ。いいえ、後悔はきっとすると思います。どの道を選んだとしても。でもわたし、決めましたの。どこかで後悔しなくてはならないなら、自分のしたいことよりも、しなくてはならないと感ずることを選ぼうと。それがわたしの夢の終わりで、旅路の尽きるところでも、そこからまた始まる旅もあるのかもしれませんもの。」(283ページ)

事件は、あらすじにもある3つを撚り合わせたもので、意外性はさほどないのですが、その分地に足の着いたというか、無理のないものになっていまして、これはおそらく、背景が「ジャポニズム」「日本人村」という、当時のイギリス社会から見ればイロモノであることから、対比の意味でもそうしたのだろうな、と思っています。

これでシリーズ第4巻までの感想を終えたので、いよいよ最終巻ですね。
(とは別に、第5巻で途絶えていたこのシリーズですが、出版社を変えて再スタートしたようですね。)



<蛇足1>
奥様が今日のように外出されるのはとても珍しくて、お客様のいないときは毎日書斎で読書をされたり、机に向かって書き物をされている。(14ページ)
やはり「~たり、~たり」と対応していないことが気になります。
守っていない文章の方が多い気もしますので、これが気になるのはもはや病気ですね、我ながら。

<蛇足2>
さもなきゃサーカスについて歩く行商人みたく、派手にショウでもやって盛り上げて、安ピカものをぱあっと売りつけて、翌日はさっと姿をくらますかだよ。(138ページ)
「みたく」という表現も気になりますが、ここは使用人のセリフですから、あえてという解釈も可能ですね。

<蛇足3>
本当に、やけにもつれた話だこと。わたしくの書く小説だって、これほどごちゃついた筋書きにはしないことよ。読者を面白がらせるより、途中でげんなりさせかねないもの(155ページ)
これは、レディ・ヴィクトリアが事件を整理していうセリフですが、メタ的に読めば、作者の自信の表れですね。頼もしい。

<蛇足4>
 たぶんご存じないでしょうけれど、イギリスで近年現れた happy dispatch という奇妙なことばがあります。幸いなる処刑、とでも言い換えられるかしら。これは日本のサムライの文化に触れたイギリス人が、切腹につけた訳語なの。
 自分の手で自分の体に致命傷を与えるけれど自殺ではない、一種の罰ではあっても不名誉な死刑とは違う。それは主君からサムライにのみ許される『かたじけないご措置』なのだと日本人は説明し、理解できないまま直訳したことばが、一種の逆説と化してしまったのでしょうね。日本という不思議の国の、不思議の観念として。(195ページ)
半月とはいえ、日本に行ったことがある(!)というレディ・ヴィクトリアのセリフです。
とても興味深いですね。もっとこういうのを盛り込んでほしいです。







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