田舎の刑事の動物記 [日本の作家 た行]
<カバー裏あらすじ>
野生のサルの被害が問題になり、変人学者の主張でサル対策を警察が主動しなければならなくなった。しかも不可解な状況で発生したボスザルの死の謎をも解き明かす必要に迫られ、黒川刑事はしぶしぶ捜査に乗り出す──田舎でだって難事件は起こる。鬼刑事黒川鈴木、今日も奮闘中。第三回ミステリーズ!新人賞受賞作家による脱力系ミステリ第二弾、肩の力を抜いてお楽しみください。
読了本落穂ひろいです。
2017年10月に読んだ滝田務雄「田舎の刑事の動物記」 (創元推理文庫)
「田舎の刑事の趣味とお仕事」 (創元推理文庫)(感想ページはこちら)に続くシリーズ第2弾です。
以下の六編収録
田舎の刑事の夏休みの絵日記
田舎の刑事の昆虫記
田舎の刑事の台湾旅行記
田舎の刑事の闘病記
田舎の刑事の動物記
田舎の刑事の冬休みの絵日記
この感想を書こうとして、なにしろ読んだのが5年以上も前ですから、思い出そうとパラパラめくっていたら、おもしろくてどっぶり浸ってしまいました。
前作の感想を読み返すと、「脱力系」とされる笑いの部分にあまり馴染めていないようですが、今回見返したらその部分がとても楽しい。
レギュラー陣となる登場人物たちが変なやつばっかりなこのシリーズ。
主人公となる探偵役の黒川も、かなりの変わり者です。それ以上に輪をかけて変な周りの登場人物。
黒川の妻の登場シーンはいずれも衝撃(笑撃?)的です。
冒頭の「田舎の刑事の夏休みの絵日記」に顕著ですが、その登場シーンが笑いに貢献しているだけではなく、しっかり謎解きと結びついているのが素晴らしい。
ささいな手がかりというのは、謎解きシーンまでくると忘れてしまっていることもあるものですが、笑いで印象づけられているので謎解きシーンでもきっちり覚えていることができます。こういうのがユーモアミステリの正しいあり方のような気がします。
「昆虫記」も、ハチの巣が盗まれるというトンデモ事件をミステリではよくある発想で作品化したものなのですが、笑いの目くらまし効果は有効に機能していると思いました。
「台湾旅行記」は、この発見(思いつき)をミステリに仕立てるのがすごいなぁ、と感心。これから海外旅行で空港にいったら、ニヤニヤしてしまいそうです。
着眼点という意味では、「闘病記」も楽しいですね。駐車場のほうはままあるアイデアですが、ペットボトルの方はミステリになるんだとびっくり。
「動物記」は、野生のサルの被害が増えている折、スーパーマーケットの屋上でサルが死んでいた(殺されていた?)、という事件で、正攻法のミステリ(という表現も変ですが)です。
ここでも笑いの要素と思っていた事項がしっかり謎解きで活かされます。
「しかし黒川くん、サルも木から落ちると言うぞ」
「だからね、滅多に落ちないからそういう諺があるんでしょ」
「でも逆に言えば、たまには落ちるからそういう諺があるのだろう」(233ページ)
というやりとり、気に入りました。
「冬休みの絵日記」のトリックは、実用的なのでしょうか? そうではないのでしょうか?
うまくいくような、いかないような、ちょっと判断がつきませんが、ミステリとしてはいい感じで処理されています。
テレビドラマ化もされたシリーズですが、いまでは品切れのようですね。
次の「田舎の刑事の好敵手」 (創元推理文庫)を確保してい置いてよかったと思いました。
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