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動機、そして沈黙 [日本の作家 西澤保彦]


動機、そして沈黙 (中公文庫)

動機、そして沈黙 (中公文庫)

  • 作者: 西澤 保彦
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2012/11/22
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
時効まで二時間となった猟奇犯罪「平成の切り裂きジャック」事件を、ベテラン刑事が回想する。妻と戯れに推論を重ねるうち、恐ろしい仮説が立ち上がってきて……。表題作ほか、妄執、エロス、フェティシズムに爛れた人間の内面を、精緻なロジックでさらけだす全六作品。


2023年9月に読んだ11作目の本です。
西澤保彦の「動機、そして沈黙」 (中公文庫)

タイトルから、デイヴィッド・マーティン「嘘、そして沈黙」 (扶桑社ミステリー)と何か関連性があるかな、と思いましたが無関係ですね。

「ぼくが彼女にしたこと」
「迷い込んだ死神」
「未開封」
「死に損」
「九のつく歳」
「動機、そして沈黙」
以上6編収録短編集。

西澤保彦といえば、独特のロジックが展開するのが特徴で、非常にアクが強い。
こちらが若い頃はそれでも飲み込んでいましたが、ちょっと読んでいて辛いものがありました。

西澤保彦の初期作に多かった特殊設定下だと、状況を理解していくのにああでもないこうでもないと試行錯誤が必要で、そのために極端なロジックが展開されても理解に役立つ面があり受け入れやすかったのだと思いますが、普通の一般社会の設定だとロジックの極端さが強調されて受け入れにくくなってしまっているのでしょう。

顕著なのが「未開封」なのではないかと。
この作品のロジックを実感を持って受け止められる人、どのくらいいるのでしょうか?
根っこの部分は理解できなくもないのですが、そこから殺人への飛躍振りがついていけないように感じました。
続く「死に損」 も難解です。早々に犯人の見当がつき、動機探し的な物語になっているのですが、肝心の動機が......

「ぼくが彼女にしたこと」はロジックは普通のものですが、その周りに配置されている性的な色彩が強くてちょっとげんなり。

その意味では、迷い込んだ屋敷で展開される悪夢のような一族の物語の裏側が明かされる「迷い込んだ死神」や、ストーカーに付き纏われていたことが判明したことから主人公が思いもよらなかった自らの秘密(?) にたどりつく「九のつく歳」は、どぎつさのバランスが抑え気味なのでとっつきやすいかもしれません。
表題作「動機、そして沈黙」が、長さ的にも一番の力作なのでしょう。定年間近の刑事が、もうすぐ時効を迎える「平成の切り裂きジャック事件」の真相を妻とのディスカッションからつかんでいく。同趣向の作品はあるように感じましたが、なんともいえない余韻が残るのがポイントかと思います。

解説で千街晶之が
「著者の作品群において、本格ミステリとしてのロジカルさと同時に、フェティシズム、人間の記憶の不確実性、家族間の確執、狂気──そして、それらをひっくるめた『異形の妄執』が一貫して描かれ続けていることを意味する。実はロジックもまた、その妄執のかたちを可視化するための道具立てなのだ。」
と指摘しているのに深く頷いてしまいます。

最後に、西澤保彦といえば、難読苗字が連発されるのも特徴ですね。本書でもこの特徴は健在。
吉目木(よめき)、茨田(ましだ)、竹楽(つずら)、伊良皆(いらみね)、紫笛(してき)、乳部(みぶ)、国栖部(くずべ)、陸井(くがい)、壬生(みぶ)、尾立(おりゅう)、津布楽(つぶら)......



<蛇足>
「郷里在住の友人の結婚披露宴に出席するため、列車で海松市へやってきたところだった。ふたりが同じ便に乗り合わせていたのは、別に事前に示し合わせていたわけではなく、単なる偶然だという。」(140ページ)
列車を便というのですね。なんとなく飛行機にしか使わないイメージでしたが、当然列車にも使うべき語ですね。

タグ:西澤保彦
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