完盗オンサイト [日本の作家 か行]
完盗オンサイト
玖村まゆみ
講談社
<裏帯あらすじ>
報酬は1億円。皇居へ侵入し、徳川家光が愛でたという樹齢550年の名盆栽「三代将軍」を盗み出せ。
前代未聞の依頼を受けたフリークライマー水沢浹は、どうする? どうなる?
不気味な依頼者、別れた恋人、人格崩壊しつつある第3の男も加わって、空前の犯罪計画は、誰もが予測不能の展開に。最後に浹が繰り出す、掟破りの奇策とは?
すっかり更新をさぼってしまっていますが、ぼちぼちやっていきます。
本作は、第57回江戸川乱歩賞受賞作。単行本です。「よろずのことに気をつけよ」と同時受賞です。
選考委員の一人、内田康夫が「マンガの原作程度にしか評価できない」と最低点として酷評した作品です。そのまま選評が巻末に載っています。
確かに、欠点だらけ、というか、八方破れというか、問題箇所が多すぎてどこから指摘したものか、という感じですが、全体として非常に楽しく読めました。
ロッククライミングの要領で皇居に侵入して盆栽を盗む、という、こんなこと考えるヤツいないだろうな、と思わせる、馬鹿馬鹿しい、だけれども、なんとなくわくわくできそうなアイデアが、バックボーンとなって物語を支えているのがなによりも長所のように感じました。
そして、人物像。まず主人公の浹(とおる)が、共感しやすく、魅力的に描かれています。浹が身を寄せる寺の住職・岩代も、岩代と住んでいる男児・斑鳩(いかる)も、浹が思いを寄せる女性クライマーの葉月も、それぞれ味がある書き方。登場の仕方がかなり嫌な感じの依頼人・國生環だって、くっきりしています。
気になったのは、瀬尾という登場人物の視点から見たパートが、そのほかの部分とトーンがあまりに違いすぎて、浮きあがって見えてしまったこと。そこが残念。ストーリー展開上の必要性は理解できなくもないですが、もっと旨い処理方法があったのではないかな、と思えます。このパート、読後感もよろしくないし。
また、枚数が足りなかったのか、後半がものすごい駆け足でせわしいのですが、スピーディと捉えることもできそうです。最後の斑鳩の扱い方が配慮に欠ける点はさすがに気になりますが、これも枚数の制約のせいかもしれません(乱歩賞は枚数超過は失格なので)。
乱歩賞というと、題材第一主義だとか、予定調和だとかいわれることが多いようですが、この作品はそんなせせこましいことはすべて蹴っ飛ばして、きらりと光るアイデアと、主人公浹の性格同様まっすぐで勢いのあるストーリー展開で勝負する、なかなか気持ちの良い作品だと思います。
2014.2追記
文庫化されていましたので、書影を追記します。
玖村まゆみ
講談社
<裏帯あらすじ>
報酬は1億円。皇居へ侵入し、徳川家光が愛でたという樹齢550年の名盆栽「三代将軍」を盗み出せ。
前代未聞の依頼を受けたフリークライマー水沢浹は、どうする? どうなる?
不気味な依頼者、別れた恋人、人格崩壊しつつある第3の男も加わって、空前の犯罪計画は、誰もが予測不能の展開に。最後に浹が繰り出す、掟破りの奇策とは?
すっかり更新をさぼってしまっていますが、ぼちぼちやっていきます。
本作は、第57回江戸川乱歩賞受賞作。単行本です。「よろずのことに気をつけよ」と同時受賞です。
選考委員の一人、内田康夫が「マンガの原作程度にしか評価できない」と最低点として酷評した作品です。そのまま選評が巻末に載っています。
確かに、欠点だらけ、というか、八方破れというか、問題箇所が多すぎてどこから指摘したものか、という感じですが、全体として非常に楽しく読めました。
ロッククライミングの要領で皇居に侵入して盆栽を盗む、という、こんなこと考えるヤツいないだろうな、と思わせる、馬鹿馬鹿しい、だけれども、なんとなくわくわくできそうなアイデアが、バックボーンとなって物語を支えているのがなによりも長所のように感じました。
そして、人物像。まず主人公の浹(とおる)が、共感しやすく、魅力的に描かれています。浹が身を寄せる寺の住職・岩代も、岩代と住んでいる男児・斑鳩(いかる)も、浹が思いを寄せる女性クライマーの葉月も、それぞれ味がある書き方。登場の仕方がかなり嫌な感じの依頼人・國生環だって、くっきりしています。
気になったのは、瀬尾という登場人物の視点から見たパートが、そのほかの部分とトーンがあまりに違いすぎて、浮きあがって見えてしまったこと。そこが残念。ストーリー展開上の必要性は理解できなくもないですが、もっと旨い処理方法があったのではないかな、と思えます。このパート、読後感もよろしくないし。
また、枚数が足りなかったのか、後半がものすごい駆け足でせわしいのですが、スピーディと捉えることもできそうです。最後の斑鳩の扱い方が配慮に欠ける点はさすがに気になりますが、これも枚数の制約のせいかもしれません(乱歩賞は枚数超過は失格なので)。
乱歩賞というと、題材第一主義だとか、予定調和だとかいわれることが多いようですが、この作品はそんなせせこましいことはすべて蹴っ飛ばして、きらりと光るアイデアと、主人公浹の性格同様まっすぐで勢いのあるストーリー展開で勝負する、なかなか気持ちの良い作品だと思います。
2014.2追記
文庫化されていましたので、書影を追記します。
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