匣の中 [日本の作家 乾くるみ]
<裏表紙あらすじ>
探偵小説愛好家グループの中心人物・伍黄零無(ごおうれいむ) が謎の言葉を残して密室から消失。その後もグループの一員・仁行寺馬美(じんぎょうじまみ) が書くモデル小説どおりに密室殺人が連続する。衒学的(ペダンティック) な装飾と暗号。推理合戦の果てに明かされる、全世界を揺るがす真相とは!? 新本格の聖典『匣の中の失楽』に捧げる華麗なるオマージュ。
タイトルからも明らかですが、本書は竹本健治の「匣の中の失楽」 (双葉文庫) へのオマージュです。
「匣の中の失楽」 も仕掛け満載の作品でしたが、そのオマージュというこの作品も、膨大な仕掛けが張り巡らされています。 登場人物の命名からはじまって、気が遠くなるほど。当然ながら(?)すべては到底読み解けていません。
推理合戦、というのが一つのポイントです。こういうパターンは中井英夫の「虚無への供物」(上)、(下)(講談社文庫)以来の伝統だと思います。
しかし、読んでいて、ちょっとつらかったですね。あらすじにペダンティックとありますが、蘊蓄無限大といった様相の推理合戦は、ちっとも現実的ではなく、夢中になるには歳をとりすぎたかな、という気がしました。たかが殺人事件を推理にするのに、ロジスティック写像の漸化式ですか...易学や血液型が解決に資するでしょうか? こういう枠組みに虜になっていた頃も確かにあったので--それこそ、「匣の中の失楽」や「虚無への供物」を読んでいた頃です--高校生か大学生の頃にこの作品を手に取っていれば...と思わずにはいられません。この種のものは、その世界に浸りきるだけの余裕(?)が読む側にないと、ちゃんと寄り添えないのだと思いました。
乗りきれない部分はあったものの、それでも、最後に明かされる絵解きや暗号をはじめとした仕掛けには驚嘆しました。
絵解きは、怒りだす人もいるかもしれない内容ですが、素晴らしいと思いました。なにより、途中ああでもないこうでもないと繰り広げられる上述の推理合戦を超えて、シンプルで力強い結末が提示されているところがいいなぁ、と。
暗号については、乾くるみの剛腕に、ただひたすら圧倒されます。
読了後解説を読むと、「実は、ノベルス版ではその真相を裏づけるもうひとつの仕掛けがあった」「その暗号はノベルス版でないと表現できない仕掛けだった。竹本健治のある初期傑作を彷彿させる美しい仕掛けが、文庫化で再現できなかったことは残念なことである」なんて書いてあります。
文庫版でわかるだけでも、相当の暗号がちりばめられています。もっと仕掛けがあるなんて!
解説で示唆されている暗号(仕掛け)を文庫版で解いても、さっぱりわかりません。
気になる! でも、もうノベルス版は絶版。やむをえず、amazonマーケットプレイスで注文しました。
急いでノベルス版で該当箇所をチェック。ノベルス版でないと表現できないということなので、見当がついてはいましたが、実際に手に取ってみると、その出来栄えには絶句。ぜひ手にとって確かめてください、と言いたくなる作品です。かっこいい。
さて、本当の真相--変な表現ですが--はどこにあるのでしょうか?
最終的に真相が提示されない、というか、さまざまな解釈の余地を残して本は終わってしまいます。
作中作のタイトルが「匣の中から、匣の外へ」で、作品のタイトルが「匣の中」ということからして、すべてはやはり匣の外ではなく、中にあるんだよ、というふうに読みとったのですが...
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