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腕貫探偵 [日本の作家 西澤保彦]


腕貫探偵 (実業之日本社文庫)

腕貫探偵 (実業之日本社文庫)

  • 作者: 西澤 保彦
  • 出版社/メーカー: 実業之日本社
  • 発売日: 2011/12/03
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
大学に、病院に、警察署に……突如現れる「市民サーヴィス課臨時出張所」。そこに座る年齢不詳の奇妙な男に、悩める市民たちはついつい相談を持ちかけてしまう。隣人の遺体が移動した? 幸せ絶頂の母がなぜ突然鬱に? 二股がバレた恋人との復縁はあり? 小さな謎も大きな謎も、冷静かつ鋭い洞察力で腕貫男がさらりと解明! ユーモアたっぷりに描く連作ミステリ7編。

西澤保彦の人気シリーズのようです。
このあと、
「腕貫探偵、残業中」 (実業之日本社文庫)
「モラトリアム・シアターproduced by腕貫探偵」 (実業之日本社文庫)
「必然という名の偶然」 (実業之日本社文庫)
と続刊が次々と出ています。
それにしても、今回も難読苗字のオンパレードです。
第1話の「腕貫探偵登場」が蘇甲(そかわ)、第2話「恋よりほかに死するものなし」が筑摩地(つくま)に田還(たがつり)、第3話「化かし合い、愛し合い」が門叶(とかない)に完利(しとり)。第4話「喪失の扉」の武笠(むかさ)が普通すぎてちょっとびっくりし、練生川(ねりかわ)で持ち直したな、なんて考え、第5話「すべてひとりで死ぬ女」に出てくる刑事が氷見(ひみ)に水谷川(みやかわ)で、うーん、だいぶ普通になってきたかぁ、と油断していたら被害者の名前が兎毛成(ともなし)で、やっぱりなぁ、と思い、第6話「スクランブル・カンパニー」では螺良(にしら)に、檀田(まゆみた)に、目鯉部(まりべ)、最終話「明日を覗く窓」では泰地(たいち)。
いやあ、すごいなぁ。

さて、内容ですが、西澤保彦の作品は、ロジックというよりは、人間の思考の限界というか、境界をみせてくれていると思っています。
ミステリを読んでいて、登場人物の考え方について、「そんなこと考えるかなぁ」「そういう風には考えないんじゃないかなあ」と思うことはたびたびあると思いますが、西澤保彦の作品の場合は、ほぼすべての作品で、登場人物の考え方についていけないものを感じます。それに近いことを考えることはあるかもしれないけれど、どうもずれている。ちょっとずれているのが、大きな断絶を感じさせる。
つまり、そんなこと考える人いないよな、というところを常に突き続けている作家なのだと思うのです。おそらく、普通の人の考えとの分岐点は小さなものだと思うのですが、それが進んでいって、ずれがどんどん大きくなって、たどり着いて起こる事件はとんでもないかたち。少し変なことを考えても、常識が邪魔(?) をして思いとどまらせてくれるところを、そのままの方向で思考が、行動が暴走(?) してしまう。そういう事態を描いているのだ、と。

帯に「安楽椅子探偵に新ヒーロー登場!」とありまして、このシリーズ、趣向としては安楽椅子探偵になるらしい。
たしかに、依頼人の話を聞くだけで解決に導いてしまうので、安楽椅子探偵の結構を整えてはいますが、でも読んでいる間、そういうことはまったく感じませんでした。
安楽椅子探偵って、勝手な印象ですが、意外な手がかり、というか、思い付かないような観点で事件の謎を名探偵が解いていく、というのが醍醐味と思っているのですが、それに対してこの「腕貫探偵」の場合、意外な(というか、正直感想は異常な)思考パターンで解決が導かれるので、ずれた印象が残るからだと思います。

ということで、非常に西澤保彦らしいシリーズだと感じました。
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