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収穫祭 [日本の作家 西澤保彦]


収穫祭〈上〉 (幻冬舎文庫)収穫祭〈下〉 (幻冬舎文庫)収穫祭〈下〉 (幻冬舎文庫)
  • 作者: 西澤 保彦
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2010/10/08
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
一九八二年夏。嵐で橋が流れ孤立した首尾木(しおき)村で大量殺人が発生。被害者十四名のうち十一人が喉を鎌で掻き切られていた。生き残りはブキ、カンチ、マユちゃんの中学生三人と教諭一人。多くの謎を残しつつも警察は犯行後に逃走し事故死した外国人を犯人と断定。九年後、ある記者が事件を再取材するや、またも猟奇殺人が起こる。凶器は、鎌だった。 <上巻>
事件後、村や母の記憶を失ったブキは、東京の大学院を中退して帰郷し高校で英語を教えていた。そこで起こった同僚の殺害。凶器は鎌。同一犯による連続殺人の再開か、模倣犯か? 母のポルノ写真から、ブキが記憶を取り戻し欲望を暴走させた時、カンチ、マユちゃんと運命が再び交錯、事件から二十五年後、全貌を現す! 殺人絵巻の暗黒の果て――。 <下巻>


西澤保彦の大作です。上下巻でして、上巻が598ページ、下巻が470ページもあります。
あらすじにもありますが、オープニングは一九八二年に小さな村落を襲った惨劇。猟奇的といってもよいくらいの大量殺人です。これが中学生伊吹省路の視点で描かれます。そのため軽やかですいすい読めますが、中身は結構強烈です。
第二部はその九年後の一九九一年。省路の同級生で事件の当事者でもあったマユコの視点に移ります。で、このマユコ、一部記憶を失っている、という設定です。
残虐な事件でしたし、衝撃も大きかったでしょうから、トラウマのようになったり、記憶喪失になったりするのもおかしくないように思いますが、うーん、がっかり。
ごく少数の例外を除いて、ミステリで記憶喪失が出てくると、もうそれだけでがっかりしてしまいます。
現実の記憶喪失は知らないのですが、ミステリではあまりにも作者とって都合よく、登場人物が記憶を喪ったり、取り戻したりすることが多く、記憶喪失は要警戒です。西澤保彦の場合、記憶喪失でなくても、記憶違いとか、考え違いとかがぼろぼろ出てくるケースがあり、この作品もそういうパターンかな、とちょっと嫌な気分。
中身は、九年前に罪を着せられた外国人の遺族が記者とともに真相究明にあたる、というもので、それがとんでもない大活劇に転化していくのにはびっくり。うーん、そう来ましたか、という感じ。派手でいいではないですか。都合よく記憶が戻ってくる点はその通りだったのですが、この展開だとまあOKかなぁ、と。
ここまでが上巻で、このあと下巻は一体どうするのかなぁ、と思ったら、第三部は一九九五年になっていて、再び省路に視点が戻りますが、彼も記憶喪失! おいおい...
このタイミングであらためて連続殺人が起こると同時に、省路の推理というか推測ではありますが、八二年の事件の真相が突き止められます。やっぱり記憶喪失は都合がいいなぁ、と思わせられてしまいましたが、捻った真相はなかなか良かった。
第四部は二〇〇七年で、視点人物は意外にも(?)、ここまであまり表舞台には出てこなかった、でも一応八二年の事件に登場した、高校生だった鷲尾嘉孝。
この第四部に至る変調ぶりがすごいですね。第三部で、一応事件の真相は明かされるので、第四部はつけ足し的なものになっても不思議ではないところ、いわゆるどんでん返しではないものの、すごーい癖球が飛んできて、びっくりします。そもそも、急に視点が事件と関係の薄そうな人物に変わったので、どうなるのかな、とは思うのですが、第四部で明かされる事件の背景--ではないです--後日談は、かなり想定外なものだと思います。
そして最後の第五部は、一九七六年に遡ります。ここで、「収穫祭」という言葉の意味がわかる仕掛けになっています。第二部、第三部や癖球と呼んだ第四部あたりを考え合わせると、ちょっとニヤリとできます(かなり黒いニヤリですが)。ただ作品全体となると、ちょっと感覚的にずれているように思いました。八二年の事件は「収穫祭」とは言い難いのではないでしょうか。この作品のメインは、やはり八二年の事件だと思われますので、作品全体のタイトルとしてはあまりふさわしくないような...
気になるところが多々あれど、力のこもった作品だと思いました。


<蛇足>
本筋とは全く関係のない蛇足です。
上巻351ページ、剣道のシーンで 「左足の踵で後ずさりしながら竹刀の先端が自分の臀部にあたるほど大きく振りかぶり、そして右足の爪先で前ににじり出ながら」 とあります。
剣道のときって、左足の踵って、常に浮かせておく-床につけない-のではなかったでしたっけ?
あれれ?




タグ:西澤保彦
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