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藁の楯 [日本の作家 か行]


藁の楯 (講談社文庫)

藁の楯 (講談社文庫)

  • 作者: 木内 一裕
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2007/10/16
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
二人の少女を惨殺した殺人鬼の命に十億の値がついた。いつ、どこで、誰が襲ってくるか予測のつかない中、福岡から東京までの移送を命じられた五人の警察官。命を懸けて「人間の屑」の楯となることにどんな意味があるのか? 警察官としての任務、人としての正義。その狭間で男たちは別々の道を歩き出す。


作者はマンガ「BE-BOP-HIGHSCHOOL」 (ヤングマガジンコミックス)の作者きうちかずひろ。
小説第一作がこの「藁の楯」 (講談社文庫)。小説家としての筆名は漢字にされたようですね。
「藁の楯」 は映画化もされたので、かなり有名なのではないかと思います。

で、読み終わった感想は、正直、微妙、ですね。
映画「S.W.A.T」 の裏返しのような設定で、おもしろい思いつきだとは思うのですが...
そもそもの発端となる殺人依頼が、朝毎読の三大紙に掲載されることはどんなに根回しをしても、無理、ですね。
「いったいどれほどの数の人間を抱き込めばこんな事が可能なのか」(22ページ)
と主人公は考えていますが、ミステリだったら、この部分をしっかり組み立てておいてほしいところ。(ミステリを書いたつもりはない、とおっしゃるのでしょうが)
「S.W.A.T」 とは違って、まずこの部分が大きなネックですね。

また、清丸を襲ってくる理由は、十億円ということなのですが、そして確かに十億円は巨額(超巨額と言うべきでしょうか?)ではありますが、それをもらえるからといって普通の日本人が人殺しをしようと思うでしょうか?
たしかに清丸は凶悪犯で、死んだ方がいい人物という設定のようですが、それでもなお、みんながみんな殺そうとするとは思えません。(もちろん、出てくる人物全員が、というわけではありませんが、大層がそうなっています)
ましてや、職務として清丸を護送すべき警察官が、職務を擲って殺しますか? しかも、他の警察官を巻き添えにしてまで?
思いつきとしては素晴らしくても、ちょっと工夫が足りなかったなぁ、と思えてなりません。
一方で、いわゆるヤクザ系の人たちが組織的に殺しにやってくる、ということもあんまりない。不思議。

設定以外も微妙でして...

ぱらぱらと実物を手に取ってご覧いただきたいのですが、改行に次ぐ改行です。
一文で段落を構成し、改行されているのがほとんどです。
セリフの部分も非常に短く、そりゃあ、テンポのよいこと、よいこと。あっという間に読めます。
昔、山崎洋子の乱歩賞受賞作「花園の迷宮」 (講談社文庫)を読んだとき、改行の多さにびっくりした記憶がありますが、「藁の楯」 はそれを上回るインパクト。
山崎洋子はシナリオライター出身。
木内一裕は、マンガ家で映画監督、ということで、映像、視覚系の人が小説を書こうとするとこうなるのかな、とちょっと興味深い。
ということで、描写というものがほとんどありません。
ストーリーを展開させるために、ぽんぽんと突き進んでいく感じ。
なので、人物像があまり伝わってきません。

「人間の屑」である清丸も、ぴんと来ない。これ、小説としては致命傷ではないでしょうか?
守る方の主人公銘苅も、過去は設定されていますが、実感としては迫って来ません。
ほかの登場人物もしかり。
だから、守る側の警察官が、職務を放棄し清丸を襲ったとしても意外感はなく、ああ、そうですか、君もそういう設定の人物だったんだね、と思うだけです。
スリリングなストーリー展開なので、ハラハラはしますが、そこには人間が出てくることの意味合いは少なく、たとえば「ジュラシック・パーク」で恐竜に襲われるのとそんなに違いはありません。

そしてラスト。
このストーリーの設定からして、ラストの決着のつけ方が相当難しいことは予想がつくと思いますが、実際に作者が採用したラストがどうだったのか。
ちょっと中途半端ですよね。
このラストだったら、ここまで引っ張る必要がないのではなかろうかと思います。

とまぁ、欠点ばかりをあげつらってしまいましたが、「BE-BOP-HIGHSCHOOL」 を読んでいないので(実は、きうちさんの絵があんまり好きじゃないので...)、この「藁の楯」 を読んだだけの感想なのですが、それでも、この作者には何かがあるんじゃないかな、という気がしてなりません。
次もなにか読んでみるかも。


タグ:木内一裕
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