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帰ってきたヒトラー [海外の作家 あ行]


帰ってきたヒトラー 上 (河出文庫 ウ 7-1)帰ってきたヒトラー 下 (河出文庫)帰ってきたヒトラー 下 (河出文庫)
  • 作者: ティムール・ヴェルメシュ
  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 2016/04/23
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
ヒトラーが突如、現代に甦った! 周囲の人々が彼をヒトラーそっくりの芸人だと思い込んだことから勘違いが勘違いを呼び、本当のコメディンにさせられていく。その危険な笑いで本国ドイツに賛否両論を巻き起こした問題作。本国で二五〇万部を売り上げ、映画は二四〇万人動員、世界四二言語に翻訳された空前のベストセラー小説の待望の文庫化。著者による原注付き。 <上巻>
テレビで演説をぶった芸人ヒトラーは新聞の攻撃にあうが民衆の人気は増すばかり。極右政党本部へ突撃取材を行なった彼は、徐々に現代ドイツの問題に目覚め、ついに政治家を志していくことに……。静かな恐怖を伴ったこの爆笑小説は、ドイツで大反響を巻き起こした。本国で二五〇万部を売り上げ、映画で二四〇万人動員したベストセラー小説の待望の文庫化。 <下巻>


映画化もされた話題作です。
映画を観る前に原作を読もうと思って読みました。
まだ映画は観ていません。急いで観ないと、上映が終わってしまいますね。
読み終わった感想は、これ、映画化するの?? でした。

2011年8月30日にヒトラーが復活する、というストーリー。しかも、ヒトラーが物真似芸人のようなコメディアンになる。
あらすじを見ても、映画に向いてそうではあります。
けれど、この原作のポイントは、蘇ったほかならぬヒトラーが語り手であることなのです。
語り手の目を通して作品世界に分け入るわけだし、語り手には、読者はついつい感情移入してしまうもの。ヒトラーに感情移入!? このあたり、トリッキーな仕掛けです。
映像化すると、こういう語りの部分は消し飛んでしまいますよね。
ナレーションをいれる手もありますが、だいたいうまくいかないもの...
映画を観るのが楽しみです。

1940年代からそのまま移動してきたようなヒトラーの眼で、2011年のドイツを、そして世界を見るとどうなるか。どう映るのか。
もちろん、ヒトラーのことですから、ドイツ人(アーリア人)こそが至高であり、外人を侮蔑する見方ではありますが、なかなか一面を突いているように思えてきます。
また、テレビ、コンピューター、インターネット(作中でヒトラーはインターネッツと呼んでいます)に触れるヒトラーもおもしろい。

周りの人物はヒトラーが蘇ったとは決して思いませんから、ヒトラーはあくまで物真似芸人、どこまでもヒトラーに成りきってヒトラーのごとく振る舞う芸人、として扱います。
そのずれ、ヒトラーの過ごしてきた時代と現代のずれ、両方が組み合わさって、会話が成立してしまうあたり、あるいは成立しなくても、相手が勝手に勘違いして成立させてしまうあたり、はコメディの常道ではありますが、有効に機能しています。

きちんとした現代のIDを持たない大の大人が、普通の社会生活を送れるのか、という疑問は、触れられてはいるものの、なにせそういう考えを持ち得ないヒトラーの視点で語られることもあり、曖昧なままで通過してしまいますが、そこは物語の本筋ではないので見過ごすべきなのでしょう。
前半、ストーリー展開が遅くて、ちょっと退屈した部分もあったのですが、ヒトラーがテレビに出演し、敵役の新聞〈ビルト〉紙が出てくるあたりでかなりおもしろくなりました。

この〈ビルト〉紙を除くと、あまり対立軸がない、というか、いうほどの敵も現れず、なんだかすいすいと物事が進んでいくのも物足りないのですが、第二次大戦前の実際のナチスの台頭もこんな感じだったのかもしれませんね。
秘書(?) からなじられても、信じるところを述べていくヒトラーが、なんだか筋の通った人のように思えてきてしまって怖い。

で、感心したのがラストです。
半ばあたりで、この物語のエンディングは難しいなぁ、と思っていたのです。
で、突然現代に蘇ったように、突然現代から消えてしまうんじゃないかな、と勝手に考えていたのですが...
最初は、えっ!? ここで終わるのかぁ、という受け止めだったのですが、考えてみれば、ここしかない、と思えるような着地だと感じ入りました。
素晴らしい。

こういう問題作は、いろいろな受け止め方があるでしょうし、それぞれ思い思いに読んでいけばよい、単に笑い飛ばしてもよし、現代の問題をじっくり改めて考えてもよし、あるいはこの問題作が出版された状況とか環境に思いを馳せるのもよし、と思いますが、あらためて、映画が楽しみになりました。
上映が終わってしまう前に観に行かなきゃ。


原題:Er ist Wierder DA.
著者:Timur Vermes
刊行:2012年
訳者:森内薫



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