ダークルーム [日本の作家 近藤史恵]
<裏表紙あらすじ>
シェフの内山が勤める高級フレンチレストランに毎晩ひとりで来店する謎の美女。黙々とコース料理を口に運ぶ姿に、不審に思った内山が問いかけると、女は意外な事実を語り出して…(「マリアージュ」)。立ちはだかる現実に絶望し、窮地に立たされた人間たちが取った異常な行動とは。日常に潜む狂気と、明かされる驚愕の真相。ベストセラー『サクリファイス』の著者が厳選して贈る、謎めく8つのミステリ集。書き下ろし短編収録。
近藤史恵のシリーズ物でない短編集はこれが最初なのかもしれません。
「マリアージュ」
「コワス」
「SWEET BOYS」
「過去の絵」
「水仙の季節」
「窓の下には」
「ダークルーム」
「北緯六十度の恋」
の8編収録で、2012年1月に文庫オリジナルとして刊行されました。
粒ぞろい、と呼んで差し支えない出来の作品が並んでいます!
「マリアージュ」は、高いフレンチ・レストランに通い続ける美女の謎。
ミステリ的に解かれるわけではないのが個人的には少し残念ですが、びっくりしました。
びっくりすると同時に、納得できる話になっているところがすごいですね。
「コワス」は、ジャンル的にはホラーですね。
これ映画化したらものすごーく怖いと思います。
個人的に、「SWEET BOYS」にノックアウトされました。
こんな傑作が読めるとは。
途中まではなんとなく(物語の先行きが)わかったような気がして読んでいたんです。そしてその通りに進んではいくのですが、いやいや、近藤史恵はもっともっと突き抜けていました。
個人的に傑作アンソロジーを編むとすれば、絶対に「SWEET BOYS」は入れます。
「過去の絵」は芸大生を扱っています。
「芸大や美大は、夢を持った若者が集まるところではなく、若者がそこで夢を失うところだ。」(148ページ)という厳しさを味わえます。
ミステリとして見ると仕掛け(?) はわかりやすいのですが、そしてそれが極めて破滅的ではあるのですが、最後に救いが感じられるところがステキです。
「水仙の季節」は、もっともミステリらしい作品になっており、ミステリ的にはありふれた双子という設定を使ってタイトに仕上がっていますが、本書中ではもっとも平凡な仕上がりかもしれません。
でも、読者の想定の範囲内に完全に収まっていたとしても、それが「ぼく」の性格に寄り添っている点ポイント高いと思いました。
出てくる「ハッセルブラッド」(179ページ)というのはカメラメーカーで、ここではその製品をさしているようです。知りませんでした。
「窓の下には」 は女性が子供の頃を回想する話ですが、なるほどねー、と思いました。
これはかなり難しい状況を扱った作品だったということが最後でわかる仕組みになっています。
最後の述懐が印象深いです。
「ダークルーム」はデザイン系の学校に通っていたころの思い出(?) を3年後に振り返っています。
タイトルのダークルームは写真などの暗室を指しており、冒頭の「暗闇でしか明らかにならないこともある」(239ページ)と響きあっています。
突然消えてしまった彼女の心情を考える話になっているのですが、ラストは希望を現しているということで、いいんですよね!?
「北緯六十度の恋」は、主要登場人物は2人プラスαくらいなのですが、複雑な人間関係を扱っています。
極寒のフィンランド・ヘルシンキで、溶けていく心、という構図でしょうか。
充実した読書体験でした!
<蛇足>
最後の「北緯六十度の恋」に
「あからさまに冷たい目を向けられたり、差別されることはなさそうだ」(275ページ)
とあって、あらら...と少し残念に思いました。
無駄な抵抗だとわかってはいるのですが。
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