強欲な羊 [日本の作家 ま行]
<カバー裏あらすじ>
美しい姉妹が暮らすとある屋敷にやってきた「わたくし」が見たのは、対照的な性格の二人の間に起きた陰湿で邪悪な事件の数々。年々エスカレートし、ついには妹が姉を殺害してしまうが────。その物語を滔々と語る「わたくし」の驚きの真意とは? 圧倒的な筆力で第7回ミステリーズ!新人賞を受賞した「強欲な羊」に始まる“羊”たちの饗宴。企みと悪意に満ちた、五編収録の連作集。
6月に読んだ5冊目の本、で、最後の本、です。
表題作である「強欲な羊」で第7回ミステリーズ!新人賞した作家の短編集です。
帯にあらすじ?があるので、引用しておきます。
「強欲な羊」 姉妹の争いの果てに起こった悲劇を粘つく筆致で描く、第七回ミステリーズ!新人賞受賞作
「背徳の羊」 自分の息子と友人の息子は瓜二つ。疑心に揺れ動く男と狡猾な女、秀逸な対比。
「眠れぬ夜の羊」 幼なじみが公園で殺害された。彼女は私の婚約者を奪った憎い憎い女。
「ストックホルムの羊」 城で王子に尽くす四人の女の暮らしは、一人の若い女の登場で脆くも崩れ去った。
「生贄の羊」 深夜目覚めるとそこは公園の公衆トイレ。“羊”たちをめぐる四つの物語はここに……
の5編収録。
受賞作である「強欲な羊」ですが、うーん、どうでしょうね、これ?
落ち着いた口調で、”旦那様”へ向けて、滔々と、しかし、淡々と語られる、お屋敷での姉妹の生活。ことあるごとに事件が起きて、最後には殺人へ。
よくできた物語だとは思いましたが、感想は、既視感、なんですよね。
そこかしこに、ああこういうの読んだことある、観たことある、という感じがつきまとう。
既視感を与えるパーツ、パーツの組み合わせ方は、さすが賞をとるだけのことはある、と思えたのですが、どうもすっきりしませんでした。
「背徳の羊」もひねりすぎて、かえって底が浅くなってしまったような気がします。
「眠れぬ夜の羊」は、ミステリなのかホラーなのか、中途半端になってしまったな、と。
「ストックホルムの羊」は、服部まゆみの某作品(ネタばれを気にしない方はリンクをたどってください)との類似がネットで話題になっていたようです。
読んでいる間は気づいていなかったのですが、確かに、趣向は同じですね。しかも、さらに非現実的な方向に踏み出してしまっているのが弱い点かな、と思います。
そして最後の「生贄の羊」。
うーん、東京創元社症候群とでも呼びたくなる作品ですね(笑)。
それぞれ別個だった短編がつながる、という趣向、そろそろやめませんか? 食傷気味です。
しかもこの作品の場合、ホラーテイストのものが混じっているので、すっきり感が少ないんですよね。
とまあ、見事に否定的なコメントをつらつら書いてしまったのですが、なのに、帯にも書いてある通り「ページを捲る手が止まらない」のです。
不思議な感じですが、とても気になる作家です。
もうちょっと読んでみるのがよいように思ったので、ほかの作品もぜひ手に取ってみたいです。
<蛇足>
本文ではなく、七尾与史による解説のところなので、蛇足中の蛇足ですが、
「もちろんデビュー作はその日のうちに拝読させていただきました。」(277ページ)
いやしくも、文章で身を立てる作家が「拝読させていただきました」はないでしょう......嘆かわしい。
タグ:ミステリーズ!新人賞 美輪和音
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