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ジークフリートの剣 [日本の作家 深水黎一郎]


ジークフリートの剣 (講談社文庫)

ジークフリートの剣 (講談社文庫)

  • 作者: 深水 黎一郎
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2013/10/16
  • メディア: 文庫

<裏表紙あらすじ>
天賦の才能に恵まれ、華麗な私生活を送る世界的テノール歌手・藤枝和行。念願のジークフリート役を射止めた矢先、婚約者が列車事故で命を落とす。恐れを知らぬ英雄ジークフリートに主人公・和行の苦悩と成長が重ね合わされ、死んだ婚約者との愛がオペラ本番の舞台で結実する。驚嘆の「芸術ミステリ」、最高の感動作。


「エコール・ド・パリ殺人事件 レザルティスト・モウディ」 (講談社文庫) (ブログの感想ページへのリンクはこちら
「トスカの接吻 オペラ・ミステリオーザ」 (講談社文庫)(ブログの感想ページへのリンクはこちら
「花窗玻璃 天使たちの殺意」 (河出文庫)(ブログの感想ページへのリンクはこちら
に続くシリーズ第4弾。

前作「花窗玻璃 天使たちの殺意」の感想で、この第4作「ジークフリートの剣」(講談社文庫) のことを
「日本に置いて来てしまったので、読めるのはいつになることやら......」
と書いていましたが、日本に帰って来たので読みました!

今度の題材は、ワグナー。
ワグナーの歌劇、観たことないのですが、それでも楽しめました。観ていたら、もっと楽しめたのでしょうね。
さすがは芸術探偵シリーズ、というところなのですが、実は芸術探偵である神泉寺瞬一郎は脇役なのです。
もちろん、探偵役ですから重要な役どころではあるのですが、圧倒的に主役・藤枝和行の物語です。

この藤枝和行が、まあ、嫌なやつなんです。
ザ・俺様。他人のことなんて、ちっとも構わない。
ドイツのバイロイト音楽祭での「ニーベルングの指環」のジークフリート役に抜擢されるくらいなので、実力十分なのですが、その実力に負けないくらい尊大な男。
もっとも
「日本人がここで主役を張るなんて、百年早いと思わないか」
というセリフも作中にあり、
「オペラが西洋文明の精華である以上、この分野における日本人の擡頭を、新たなる黄禍と見做す<ヨーロッパ人>がいたとしても何の不思議でもない」(120ページ)
とされる大役は、傲岸不遜なキャラクターでないと務まらないようにも思います。
こういうキャラクターがお気に召さない読者もいらっしゃると思いますが、楽しく読んでしまいました。
こういうキャラクターに憧れがあるのかも!?

彼の婚約者である遠山有希子がヒロインとして対峙するわけですが、尽くすタイプとなっていて、こちらはまさしく悲劇のヒロイン。
冒頭から「命を落とす」と予告され、その通りになってしまいます。
第一章の終わり、グルノーブルの列車事故で死んだと、和行のもとへ知らせが。

この後、和行視点でのバイロイト音楽祭の内幕が物語の中心となり、陰で神泉寺瞬一郎が有希子の死の真相を探るという展開となります。

ユーゴーの名作「ノートルダム・ド・パリ」を改変してしまう娯楽産業に対して、
「だが、芸術の目的は、やはりそれとは違うだろうと思うのだ。娯楽産業と違って芸術は、真実を示すものでなければならない。この世界では愛が必ず勝つとは限らないことを、努力した善人が報われて幸福になるとは限らないことを、示すものでなくてはならない。」(300ページ)
と和行が考えるシーンがあります。
とすればこの物語自体のラストシーンが不安になってくるわけですが、本書のクライマックスは「ニーベルングの指環」の舞台で、見事としかいいようのないエンディングを迎えます。

この後の、和行の物語を読んでみたいな、と思いました。


<蛇足1>
「オペラが西洋文明の精華である以上、この分野における日本人の擡頭を、新たなる黄禍と見做す<ヨーロッパ人>がいたとしても何の不思議でもない」(120ページ)
上の本文でも引用したところですが「黄禍」に「こうか」とルビが振られています。
「おうか」と読むと思い込んでいたので少々びっくりしましたが、読み方としては「こうか」「おうか」の順に書かれていることが多いので、「こうか」が一般的なんですね。
「黄色人種」は「おうしょく」なのだから、黄禍も「おうか」と読んだほうが自然と思わないでもないですが、違うのですね。
勉強になりました。

<蛇足2>
「何を言っているんだカズユキ。プライドが高くない女性なんて、仮にものにできたとしても、何の喜びもないだろうが。女性のプライドが高ければ高いほど、僕らの喜びもまた大きくなる。何故なら僕らが女性を抱くとき、そのプライドも一緒に抱くのだから」(166ページ)
うわぁ、和行も和行なら、友人(?)も友人ですね。

<蛇足3>
「いえ、猫舌なんです」
 犬のような格好で舌先を冷やし終えると、青年はおもむろに向き直って言った。(173ページ)
ここでいう「犬のような格好」とは、どういう格好なんでしょうね? 舌を出しているということかな?

<蛇足4>
いくら語学が堪能とは言え、生まれつきのバイリンガルではない和行は、朝から晩まで外国語で生活していると、自分の中の分水嶺のようなものから水があふれ出し、もうその日はそれ以上外国語で聞いたり話したりする集中力が、まるで働かなくなってしまう時がある。(289ページ)。
なるほどなぁ、と思った部分なのですが、ここの「分水嶺」は「ダム」のほうがわかりやすいな、と思いました。




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