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虚ろな十字架 [日本の作家 東野圭吾]


虚ろな十字架 (光文社文庫)

虚ろな十字架 (光文社文庫)

  • 作者: 圭吾, 東野
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2017/05/11
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
中原道正・小夜子夫妻は一人娘を殺害した犯人に死刑判決が出た後、離婚した。数年後、今度は小夜子が刺殺されるが、すぐに犯人・町村が出頭する。中原は、死刑を望む小夜子の両親の相談に乗るうち、彼女が犯罪被害者遺族の立場から死刑廃止反対を訴えていたと知る。一方、町村の娘婿である仁科史也は、離婚して町村たちと縁を切るよう母親から迫られていた――。


2023年1月に読んだ2冊目の本です。
東野圭吾「虚ろな十字架」 (光文社文庫)
上で引用したあらすじをご覧いただいてもわかると思いますが、死刑問題を扱っています。そう読みました。
もやもやしております。

主人公中原が被害者家族であるので、被害者寄り≒死刑賛成のトーンが強くなっていますが(必ずしも被害者家族であるから死刑賛成とは限らないとは思いますが、この作品ではそうなっています)、両論書かれています。

「そして蛭川も真の意味での反省には、とうとう到達できないままだった。死刑判決は彼を変わらなくさせてしまったんです」「死刑は無力です」(165ページ)
死刑囚の弁護をした弁護士のコメントです。
死刑判決を受けたがためにかえって自らのしたことに向き合わなくなってしまうという例を挙げているのですが、衝撃的な言葉です。

一方の死刑推進派は、主人公の妻で第二の事件の被害者である小夜子が(作中では)代表ですね。
「遺族は単なる復讐感情だけで死刑を求めるのではない。家族を殺された人間が、その事実を受け入れるにはどれほどの苦悩が必要なのかを、どうか想像していただきたい。犯人が死んだところで被害者が蘇るわけではない。だが、では何を求めればいいのか。何を手に入れれば遺族たちは救われるのか。市死刑を求めるのは、ほかに何も救いの手が見当たらないからだ。死刑廃止というのなら、では代わりに何を与えてくれるのだと尋ねたい。」(154ページ)
『人を殺した人間は、計画的であろうとなかろうと、衝動的なものだろうが何だろうが、また人を殺すおそれがある。それなのにこの国では、有期刑が下されることも少なくない。一体どこの誰に、「この殺人犯は刑務所に〇〇年入れておけば真人間になる」などと断言できるだろう。殺人者をそんな虚ろな十字架に縛り付けることに、どんな意味があるというのか。
 懲役の効果が薄いことは再犯率の高さからも明らかだ。更生したがどうかを完璧に判断する方法などないのだから、更生しないことを前提に刑罰を与えるべきだ。』(174ページ)
小夜子の遺稿の記載です。
タイトルの「虚ろな十字架」はここから取られています。

「それぞれの事件には、それぞれにふさわしい結末があるべきだと思うのです。」(158ぺージ)
上で引用した弁護士のコメントで、おそらくこう考えるしかないのだろうと思うものの、ではどうすればいいのかという答えがないのが難しいですね。

冒頭もやもしていると書きましたが、死刑問題というのは簡単に結論が出せるようなものではない難しい問題なので、これ自体に方向性が(作中で)打ち出されないことにもやもやしているのではありません。
描かれている事件の構図が、死刑問題というテーマとマッチしていないように思えたことがもやもやしている点です。
というのも......
中原が調査を進めるうちに小夜子の事件が意外な様相を見せる、というのがミステリとしての展開なわけですが(これくらいは明かしてしまってよいと思います。正直いうとさほど以外ではありませんが...)、この真相は死刑問題を考えるにあたりふさわしいものだったのかどうか。
金目当てではなかったとはいうものの、つまるところはあくまで利己的な犯行に思えてしまったんですよね。この題材であれば、もともと死刑になるような犯罪ではないとはいえ(ここも死刑問題の観点から議論の余地があろうかとは思いますが)、もっと犯人サイドに同情の余地(情状酌量の余地というべきでしょうか?)がある犯行であるべきではないでしょうか? 
ぼかした言い方をしますが、過去の出来事の性質がまさに同情の余地のあるものであるだけに、余計そう考えてしまいます。
死刑問題そのものが真相への目くらまし、というかたちにもなってしませんし、もやもやする所以です。


<蛇足>
「俺と君の連名にしてあるから」(122ページ)
史也が妻の花恵にいうセリフで、史也が小夜子の両親に宛てて書いた手紙が続くのですが、連名の手紙に「義父」という表現が出てきてあれっと思いました。
義父というのは完全に史也視点で、花恵の視点がないからです。
でもこういう場合(連名のそれぞれからみた呼称が違う場合)は何と書くがよいのでしょうね?


<2023.8.3追記>
2014年週刊文春ミステリーベスト10 第5位です。


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