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大聖堂の殺人 The Books [日本の作家 周木律]


大聖堂の殺人 ~The Books~ (講談社文庫)

大聖堂の殺人 ~The Books~ (講談社文庫)

  • 作者: 周木 律
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2019/02/15
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
すべての事件を操る数学者・藤衛に招かれ、北海道の孤島に聳え立つ大聖堂を訪れた宮司百合子。そこは、宮司家の両親が命を落とした場所だった。災禍再び、リーマン予想の解を巡り、焼死や凍死など不可解な殺人が発生する。しかし、藤は遠く離れた襟裳岬で講演の最中だった。大人気「堂」シリーズ、ここに証明終了!


2023年1月に読んだ最初の本です。ようやく今年読んだ本に辿り着きました。
周木律の堂シリーズ最終作、「大聖堂の殺人 ~The Books~」 (講談社文庫)です。
ようやく最終作ですよ。長かったなぁ。

シリーズ最終作にふさわしく(?)、舞台は因縁の(?)孤島。

このシリーズ、「教会堂の殺人 ~Game Theory~」 (講談社文庫)をワーストとして、後半読むのがつらくなっていたんですよね。

その意味では、本書「大聖堂の殺人 ~The Books~」 (講談社文庫)も読むのがつらかったですね。

数学を中心とした衒学は鬱陶しいだけだし、天才と称される登場人物は単にイカれているだけだし(天才となんとかは紙一重といいますが、その意味では天才ではなく天才と紙一重の方)、トリックはバカバカしいし、エンディングはめちゃくちゃだし(トリックとエンディングが整合しているのか気になっています)。
シリーズを通してみても、作中であれほど天才だ、天才だという藤衛がちっとも天才に見えないのは致命的だと思います。

伊弉諾(イザナギ)や伊弉冉(イザナミ)まで持ち出して仰々しく語る日蝕のエピソード(184ページ~)もばかばかしくて、いったいいつの時代の未開の地の話なんだと思いますし、
「襟裳岬において、太陽すら欠けさせ、まるで神のごとき力を見せつけた、藤衛が」(397ページ)
というに至ってはジョークにしても出来が悪すぎて戸惑うほどです。

「上手に使えば、身体を意のままにすることなど訳はない。」(484ページ)
「彼らを導き得るのも、すべては彼らが私の期待どおりに聡明だったからだよ。」(485ページ)
というところも、凡人であるこちらにすら明らかな内容なので笑うしかないですよね。

数学をめぐる議論の結論は、百合子が出すのですが、
「数学は、結果ではない。
 結果は、ただの知識だ。それよりもむしろ、その知識に至る過程において人間が、人間たちが必死に生み出していく叡智、言い換えれば無限の想像力にこそ、真価がある」(596ページ)
というのでは、少々凡庸にすぎはしないかと。
「数学とは、その無限に続く道のりの踏破であり、まさしく世界の発散そのものだ。決してただ一点に収束させ得るものではない。そのための努力が人々により続けられる限り、知性が神に負けることも、ないのだ。」(597ページ)
というと少し印象は変わりますが、光の当て方が変わっただけで、凡庸から離れた地点に到達したとは言えないでしょう。

となると、これはダメでしたね、とポイっと投げやると思われるかもしれませんが、実はこの「大聖堂の殺人 ~The Books~」 (講談社文庫)を読んでいて、シリーズを閉じてやるんだ、という作者の気迫にちょっと感動してしまったんですよね。

正直作中の藤衛は天才だ、天皇だ、神だと言われているものの、到底神の領域には到達できない単なる狂人ですが(作者の意図に反して、でしょうね)、作者は物語世界の神として君臨し、すべてを統べるという意思をみなぎらせています。
作中に見られる様々な要素も、タイトルも、副題も、果ては作者のペンネームに至るまで、ありとあらゆるものを取り込んで、シリーズを仕立て上げようという蛮勇は、称賛するしかないと思います。
ちょっとゆがんだかたちではありますが、ミステリにおける稚気を存分に発揮したシリーズ、と言える気がしました。


最後にシリーズのリストを。
「眼球堂の殺人 ~The Book~」 (講談社文庫)(感想ページはこちら
「双孔堂の殺人 ~Double Torus~」 (講談社文庫)(感想ページはこちら
「五覚堂の殺人 ~Burning Ship~」 (講談社文庫)(感想ページはこちら
「伽藍堂の殺人 ~Banach-Tarski Paradox~」 (講談社文庫)(感想ページはこちら
「教会堂の殺人 ~Game Theory~」 (講談社文庫)(感想ページはこちら
「鏡面堂の殺人 ~Theory of Relativity~」 (講談社文庫)(感想ページはこちら
「大聖堂の殺人 ~The Books~」 (講談社文庫)




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