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ビッグデータ・コネクト [日本の作家 は行]


ビッグデータ・コネクト (文春文庫)

ビッグデータ・コネクト (文春文庫)

  • 作者: 藤井 太洋
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2015/04/10
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
京都府警サイバー犯罪対策課の万田は、ITエンジニア誘拐事件の捜査を命じられた。協力者として現れたのは冤罪で汚名を着せられたハッカー、武岱。二人の捜査は進歩的市長の主導するプロジェクトの闇へと……。行政サービスの民間委託計画の陰に何が? ITを知りつくした著者が描くビッグデータの危機。新時代の警察小説。


2023年4月に読んだ本の感想が終わりましたので、読了本落穂ひろいを何冊か。
2015年12月に読んだ藤井太洋の「ビッグデータ・コネクト」 (文春文庫)

藤井太洋は、「オービタル・クラウド」(上) (下) (ハヤカワ文庫JA)で日本SF大賞を受賞している作家でSF畑の方という認識でした。
SFということならいつもはスルーなのですが、どことなく気になっていたところに、この「ビッグデータ・コネクト」はサイバー・ミステリということで興味を抱きました。

買ってよかった。とてもおもしろかったです。

警察官である万田と、ある事件の容疑者で万田が取り調べたこともあるが起訴取り下げとなった経歴を持ち、故あって協力者となったエンジニア武岱(ぶだい)という組み合わせがまずいいですね。
王道といえば王道の設定ですが、この物語にもっともふさわしい捜査コンビであると思えました。
捜査仲間となる捜査一課仕込みの綿貫のキャラクターもわかりやすいし、警察経験五ヶ月のセキュリティのプロ小山もいい感じでした。
武岱の弁護士として登場する赤瀬も、捜査の邪魔をする存在のような描かれ方が続くのですが、いい存在感を示しています。

あらすじに先走って書かれちゃっていますが、行政(大津市長という一地方自治体というのが驚きです)が作り上げようとしている情報システム《コンポジタ》をめぐる不正という、というのは、開発に携わっていたエンジニアの失踪(誘拐?)という事件からしてあからさまなので、(あらすじで)隠す必要がないのかもしれません。

陰謀の内容自体は想定の範囲内、というか、個人データというとそういう使い方くらいしか思いつかないのですが、さまざまな当事者の思惑が絡み合うところが醍醐味だと感じました。
素人のこちらにも楽しく読めて、かつ問題点も明らかになる、というエンターテイメント。
ITエンジニアの実態とか、知らないことが多く、でも実感として迫ってくる書き方がされていました。

マイナンバーカードをめぐっていろいろと議論がされている昨今、この作品が改めて耳目を集めるようになればよいのかもしれません。

おもしろかったので、「オービタル・クラウド」(上) (下) も買っちゃいました。
読むのはいつになるかわかりませんが......

<蛇足>
「防音壁だから言うたねん。」(283ページ)
京都府警サイバー犯罪対策課を扱っているだけに、作中に関西弁(と大くくりに言うことをお許しください)が飛び交っています。
自在に操る田辺聖子や黒川博行のような大御所がいますが、関西弁は小説中の文字にするのが難しいと常々感じております。
藤井太洋さんは、鹿児島出身とのことですが、非常にナチュラルに書き込まれていて感じ入りました。
そんな中で気になった表現。
「だから」は「やから」の方が雰囲気が出るでしょうね(ただし、「だから」を使わないということではありません)。
「ねん」に疑問を感じました。
「せやから間違いやねん」(286ページ)とすぐ後にも使われていますが、こちらには違和感を感じません。形容詞、形容動詞に「やねん」がつくのはナチュラルです。
「ねん」は念押し、強調で使われる語ですが、過去形につける用例を耳にしたことはありません(当然口にしたこともありません)。ここはいうとすれば、「言うたんや」でしょうか。






タグ:藤井太洋
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