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野蛮なやつら [海外の作家 あ行]


野蛮なやつら (角川文庫)

野蛮なやつら (角川文庫)

  • 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
  • 発売日: 2012/02/25
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
舞台はカリフォルニアのラグーナ・ビーチ。2人の若者ベンとチョンは、幼なじみのオフィーリアとの友好的な三角関係を愉しみつつ、極上のマリファナの栽培と売買で成功を収めていた。だがメキシコのバハ麻薬カルテルが彼らのビジネスに触手を伸ばす。傘下入りを断った2人に対し、組織はオフィーリアを拉致。彼女を取り戻すため、2人は危険な賭けに出るが──。鬼才ウィンズロウの超絶技巧が冴え渡る犯罪小説の最進化形。


2023年9月に読んだ9作目(11冊目)の本です。
ドン・ウィンズロウ「野蛮なやつら」 (角川文庫)

いきなりの1ページ目の第1章が

ざけんな。

そして第1章は、これで終わり。
独特の文体でつづられる、野蛮なやつらの物語。
最初のうちはこの文体に戸惑うのだけれど、次第に、個性あふれる登場人物たちが絡み合い、作用しあって紡がれる物語にしっかり引き込まれていきます。

ベン、チョンサイドは、麻薬ビジネスをやっているといっても、どこか牧歌的というか、ゆるゆる。
一方のメキシコのカルテルは、当然のことながらハード。
ゆる~いマンガ的世界(現代の発達したコミックというよりは、昔懐かしいマンガのイメージです)とハードな裏社会とをかけあわせるとどうなるか、というのを斬新な実験的文体でつづった作品、ということになります。

個人的にはゆるゆるの世界を強く支持したいのですが(あっ、でも麻薬はダメです)、この2つが混じった世界がどうなるか、多勢に無勢あるいは組織体個々の決着がどうなるかというのは、カルテルサイドの内紛がどの程度影響を及ぼすかにかかってくるとは言え、まあ容易に想像できてしまうわけで、ベン、チョンサイドに立って読み進める読者としては、悲劇的な結末を迎えてしまうのだろうな、とやや悲観的になってしまいます。

ゆるゆるだった世界が、途中からハードな世界に搦めとられ、どんどん色を変えていく様子。
想定される悲劇的な結末。

軽いウィンズロウが懐かしくもありますが、これはこれで充実した読書体験でした。


<蛇足1>
「何が災いしたと思う?」
「強欲だな」と、チョン。「強欲と不注意と頭の悪さ」
(ベンに言わせれば、それは、今は亡き ”連合” のみならず、人類全体にとっての滅亡の三要素だった)(56ページ)

<蛇足2>
「手荷物受取所にベンの姿があり、まるでコスタリカの研修旅行から帰った大学生のがきみたいに、緑色のダッフルバッグを待っている」(92ページ)
「ベルトコンベアでバッグが運ばれてくる。チョンがそれを取って、肩にかけ、三人で外へ向かうその途中に」(93ページ)
海外から帰ってきたベンをチョンたちがジョン・ウェイン空港へ迎えに行くシーンです。
ここを読むと、迎えに来た一般人が、手荷物受取所のベルトコンベアのあたりまで行けるようです。
国際線の出口あたりがこういう構造になっているとは思えないのですが......

<蛇足3>
「あお連中の下で働く気はないだろう?」ベンが確かめる。
「ああ」と、チョン。「まったくない。決まり金玉だ」(138ページ)
決まり金玉(笑)。
懐かしいですね。
ニール・ケアリー、帰ってきて!

<蛇足4>
「仏陀の怒りを買うよ」
「あの太っちょの日本人のか」
「太っちょインド人だ」
「日本人だと思ってた。でなきゃ、中国人だと。仏陀はアジア人じゃなかったのか」
「インドもアジアだよ」(138ページ)
英語のアジアというのは、日本人のイメージと違ってインドあたりを指す語だと理解していたのですが(でないと、東アジアや東南アジアという語の方角がおかしくなってしまう)、チョンは日本人と同じようなイメージを抱いているようですね。
もともとインドとの結びつきが強いイギリスと異なり、一般的なアメリカ人にしてみたら、インドよりも日本や中国が先に台頭していたからからもしれませんが。



原題:The Savages
著者:Don Winslow
刊行:2010年
訳者:東江一紀




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