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消失グラデーション [日本の作家 な行]


消失グラデーション

消失グラデーション

  • 作者: 長沢 樹
  • 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
  • 発売日: 2011/09/27
  • メディア: 単行本


<裏表紙サイド帯あらすじ>
繊細かつ大胆な展開、“真相”の波状攻撃、そして驚愕の結末。
私立藤野学院高校のバスケ部員椎名康は、ある日、少女が校舎の屋上から転落する場面に遭遇する。康は血を流し地面に横たわる少女を助けようとするが、少女は目の前から忽然と消えた。監視された空間で起こった目撃者不在の“少女消失”事件。複雑に絡み合う謎に、多感な若き探偵たちが挑む!!

単行本です。
第31回横溝正史ミステリ大賞受賞作。
カバーの袖部分に抜粋されていますが、選考委員が激賞しています。
選考委員のコメントや推薦者のコメントなどは信用できないことが多いですが、看板に偽りなく(?)、これは、すばらしい。
ミステリの核をなすアイデアは、新奇なものではありません。同じアイデアの作品は既にいくつも世にあります。
しかし、そのアイデアを使って描き出される世界が、アイデアと一体感のある緊密なもので、すばらしい。
このアイデアを形にするのは困難でしょうに、「ひとつ取れば崩れるようなブロックが、誤りなく組み上げられた建築である」という北村薫の言葉通り、複数のアイデアがここぞという位置に嵌め込まれていて感嘆しました。
メインのアイデア以外でも、たとえば、バスケットボールクラブでの孤立をめぐるエピソードも、屋上から墜落するとき本当は何が起こっていたのかも、非常に納得感ある解決(解釈?)が提示されていて、隅々まで考えが行き届いているように思いました。
作りすぎで不自然だとの感想を抱く人もいらっしゃるかもしれませんが、私立学校という独特の閉鎖空間が舞台であることを考えると、作者に都合よすぎる配置という批判はあたらないと思います。ミステリ好きとしては、作者が丹精込めて作りこんだ巧緻な世界を十分堪能しました。
角川書店のHPにあった馳星周さんの選評がとてもよかったので、引用しておきます。
「わたしはこの作品を質のよい青春小説として読みはじめた。今時の高校生たちがリアルに、そして躍動的に語られ、何度も感心させられた。
しかし、なにかが妙なのだ。書き手は作品世界を丁寧にこしらえているのだが、ところどころが破綻している。平らにならしたグラウンドのところどころにぽっかりと穴が開いている、そんな感じを受けるのだ。
せっかくいい形で物語が進んでいるのにどうしてこんな描写をしてしまうのだろう。どうしてこんな台詞を書いてしまうのだろう。
幾度かそう思い、隔靴掻痒の感があったのだ。
しかし、ラストでこの作品に隠されていた真実が露わになると、わたしは驚愕した。
平らな世界に開いていた穴が次々に埋まっていったのだ。すべては必要なことだった。穴はわざと穿たれていたのだ。だが、事実が判明することによってその穴は見事に消失し、たとえようもなく美しい虚構世界が屹立する。
人が本格ミステリにはまるのはこの美しさに打たれるからか。素晴らしい。」
「シャドウ」 (創元推理文庫) のとき(リンクはこちら)に引用した道尾秀介さんの言葉を連想させる選評ですが、言い得て妙、ではないでしょうか?
横溝正史ミステリ大賞だけではなく、近年の新人賞のなかでも屈指の名作、といえると思います。


<2014.04追記>
2014年02月に文庫化されました。

消失グラデーション (角川文庫)

消失グラデーション (角川文庫)

  • 作者: 長沢 樹
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA/角川書店
  • 発売日: 2014/02/25
  • メディア: 文庫




<2017.03追記>
次作「夏服パースペクティヴ」 (角川文庫)を読んだ際、素敵なHPを見つけたので、リンクを記録しておきます。(勝手リンクです。すみません)
裏旋の超絶☆塩レビュー
a picture is worth a thousand words

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