トーキョー・プリズン [日本の作家 柳広司]
<裏表紙あらすじ>
戦時中に消息を絶った知人の情報を得るため巣鴨プリズンを訪れた私立探偵のフェアフィールドは、調査の交換条件として、囚人・貴島悟の記憶を取り戻す任務を命じられる。捕虜虐殺の容疑で拘留されている貴島は、恐ろしいほど頭脳明晰な男だが、戦争中の記憶は完全に消失していた。フェアフィールドは貴島の相棒役を務めながら、プリズン内で発生した不可解な服毒死事件の謎を追ってゆく。戦争の暗部を抉る傑作長編ミステリー。
柳広司さんは、デビュー作「黄金の灰」 (創元推理文庫) がシュリーマンを探偵役に据えていたように、歴史上の人物を使った作品を数多く書かれています。
この作品には歴史上の人物は出てきていないようですが(実在の人物がいたらすみません)、時代背景は終戦直後、占領下の日本で、舞台は巣鴨プリズン。
まず、中心人物となる貴島がこの作品のポイントですね。頭脳明晰、合理的思考を持った人物に設定されていて、なのに虐待の容疑がかけられている。
どこか既視感のあるものばかりではありますが、さまざまなトリックがふんだんに投入されています。これを貴島がさっと解いていく。見当のつきやすい既視感のあるトリックだからこそ、この部分すんなり。フェアフィールドが苦労して解くのもご愛嬌?
貴島の捕虜虐待のエピソードも、ありふれたもので、語られた段階で真相が透けて見えてしまう。こちらはちょっと困ったがっかりさせられる部分。
ただ、それを受けた裁判のエピソードには感心しました。
また、最後の貴島の選択(?)には、考えさせられました。想像を超えていました。収容所を舞台にしながら技巧的につづられていたストーリーと、やや乖離する着地にも思われ、ここは評価が分かれるかもしれませんが、個人的にはよかったと思います。真犯人と貴島が対比するかのように置かれている構図も技巧のうち、と積極的に受け止めたいです。
「ジョーカー・ゲーム」 (角川文庫) を読むのがとても楽しみになってきました。
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