Xに対する逮捕状 [海外の作家 ま行]
<裏表紙あらすじ>
米国の劇作家ギャレットは自作公演でロンドンを訪れ、齢三十四にしてG・K・チェスタトンの最高傑作ともいうべき本に巡りあった。所在ない日曜の午後、チェスタトンに導かれてノッティング・ヒル界隈を逍遥した彼は、立ち寄った喫茶店で犯罪の謀議と思しき会話を耳にする。すわ一大事と会話の主を追うが尾行に失敗、事件の予兆を告げようにも取り合ってくれる相手が見つからず……。
この「Xに対する逮捕状」は、もともと、国書刊行会の世界探偵小説全集の1巻として翻訳されたものです。クラシックミステリをどんどん翻訳してくれたこの世界探偵小説全集にはとても感謝しています。「探偵小説ファンの見果てぬ夢」と山口雅也さんもおっしゃっている、好企画だったと思います。第4期まで全部で45作となりましたが、実は、「Xに対する逮捕状」だけ、買いそびれていました。単行本で揃わなかったことはかなり残念なのですが、ようやく全部読めたことはたいへんうれしく感じています。
あらすじ、からもわかるかもしれませんが、本書は、本格ミステリというよりは、サスペンスの色彩が強いように思いました。ハリウッドで脚本を書いていた、という作者フィリップ・マクドナルドの経歴が反映されているのかもしれません。
それでいて33ページに「自分がソーンダイク博士だったらな、と思った。そして俄然、ソーンダイク博士とまではいかなくともフレンチ警部くらいにはなったような気になり」なんて文章があったり、茶目っ気があります。
偶然耳にした会話から犯罪の匂いをかぎつける、という、なんだかケメルマンの「九マイルは遠すぎる」 (ハヤカワ・ミステリ文庫)を思わせるような発端ですが、論理論理を積み重ねていく「九マイルは遠すぎる」 と違い、どうやったらたどりつけるのか、推論しては途切れ、途切れては思い付き、思い付いては行き止まり...という一喜一憂ぶりが楽しい作品です。
最後なんて、タイムリミットサスペンスみたいな風味づけもあります。
世界探偵小説全集の1冊だったことから、本格ミステリを期待するとちょっと肩すかしですが、クラシカルな良質のサスペンスだと思いました。なんだか矛盾した表現ですが、おっとりとしたサスペンス-でも、だれたりしません!-をお楽しみください。
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