追伸 [日本の作家 さ行]
<裏表紙あらすじ>
山上悟はギリシャに赴任するが、妻の奈美子は日本に留まり一方的に離婚を切り出した。真意を問いただす悟に、奈美子は自分の祖父母の間で交わされた手紙のコピーを送る。50年前、祖母は殺人の容疑で逮捕され、手紙には夫婦のみが知る真実が語られていた――。人間が隠し持つ秘密を手紙が暴き出すミステリー。
まずなりよりもこの作品は全編が書簡体だということが特筆されます。
手紙-しかも往復書簡-だけで長編を構成する、というのはかなりの難事業なのでしょう。
手紙というのは、本来は読み手がただ一人に限定されるものなので、受け取る相手以外の人が読んでもわかりにくくなるうえ、どうしても饒舌というか無駄に長くなる傾向があります。
こういう難点を克服するために、現在の山上悟と妻奈美子の手紙のやりとりの第Ⅰ部と第Ⅲ部の間に、奈美子の祖父と祖母の手紙のやりとりの第Ⅱ部が挟まる、という作中作を模したような構成をとっていまして、作者の工夫が感じられます。
しかしそれでも、真保裕一をもってしても、うまくいかなかった、と思いました。もともと書簡体の長編とは相性が悪いのかもしれません。名作と誉れ高い宮本輝の「錦繍」 (新潮文庫)にも苦戦した記憶があります-もっとも「錦繍」 のほうはミステリじゃない、というハンデも僕にとってはあります(苦笑)。
自分に都合の悪いことは書かない、という点を最大限利用してミステリとしての興味を引っ張っていく、という手法に則っているのですが、第Ⅰ部で投げ出しそうになりました。肝心なところはぼかしたまま明かさず、ただくどいだけのように思われて、悟と奈美子の感情面でのやりとりも話も、ちっとも進みやしない!!
第Ⅱ部にはいって転調しますので、興味が繋ぎ止められましたが、いやあ、危なかった。この第Ⅱ部を読んでいて、ふと連城三紀彦を思い出しましたが、これは余談です。
昭和二十八年と今、祖母と孫娘を対比あるいはオーバーラップさせる、という重層的な狙いを持っていて、よく作りこんであるのですが、符合する点を見て納得する、とは残念ながらならず、ちょっぴり古臭い因縁話を読まされたような気がしました。
労作ではあったのでしょうが、ちょっとこちらの求めるものとは違っていて残念でした。
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