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娼婦殺し [海外の作家 は行]


娼婦殺し (集英社文庫)

娼婦殺し (集英社文庫)

  • 作者: アン・ペリー
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 1999/08/20
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
ヴィクトリア朝のロンドンの貧民街で娼婦が絞殺された。現場から「フィンレイ・フィッツジェイムズ」という名が刻まれたバッジとカフスボタンが発見された。大物銀行家の一人息子フィンレイの犯行か? 上流階級を巻き込んだ怪事件の捜査にピット警視がのりだした。容疑を否認するフィンレイの周辺を探りながら、事件の核心に迫る。イギリスの人気作家がピット警視夫妻の活躍を描く歴史ミステリー・シリーズ初登場。

階級制度があったヴィクトリア時代を背景に、庶民である警視が、貴族階級の関連する事件を苦労して捜査するシリーズです。
持っている本は、1999年に訳されたもの。あらすじには、シリーズ初登場とありますが、日本に訳されたのがこれが初めて、ということで、シリーズとしては16冊目となるようです。この「娼婦殺し」 のあとに、「十六歳の闇」 (集英社文庫)が訳されていて、こちらは6冊目のようです。邦訳の順は逆でしたが、シリーズとしては先になる「十六歳の闇」 の方を先に読んでいます。
「娼婦殺し」を手に取り、ひさしぶりにピット警視夫妻に会いました。
ピット警視の妻シャーロットは、もと上流階級で、いわば名家を飛び出したかたち。シャーロットの妹エミリーはいまもちゃんと(?)上流階級におり、ピットが困ると、シャーロットやエミリー、さらにはエミリーの先夫の大伯母にあたるヴェスペイシアまで協力してくれたりするのがシリーズの構造です。
階級社会の壁を通して、ヴィクトリア朝を描いているシリーズともいえ、捜査の苦労は並ではありません。そこが大きな読みどころ。シャーロットたちの協力は必要不可欠といえるでしょう。
ピット警視のパートは厳しい警察小説である一方で、シャーロットやエミリーたちのパートは上流社会のマナーに従った貴族たちを描くことになります。「少年」ではないものの、なんだか「探偵団」的なノリがどこかしら漂ってくるのも、有閑階級なればこそ。(シャーロット自身は、もはや有閑階級ではありませんが、昔を思い出して、というところでしょうか。)
今回の事件は、切り裂きジャックの恐怖が色濃く残る貧民街を舞台に娼婦が殺される、というもので、プロットが非常に丹念に作りこまれています。MWA賞最優秀長編賞の候補になったというのもうなずけます。
疑わしい大物を調べ、ようやく犯人を捕まえたと思った段階でまだ本は半分くらい。そこからの展開が迫力満点です。真相はかなり巧妙に(読者から)隠されており、ピットの焦燥が伝わってきます。
某名作を彷彿させるような事件の構造に、ミステリとして堪能できました。
蛇足ですが、この邦題はなんとかならなかったものでしょうか? 原題は"PENTECOST ALLEY" で、事件の舞台となった通りの名前です。確かに事件は「娼婦殺し」ですが、このタイトルのせいで手に取らなかった人、いっぱいいるのではないでしょうか?
ちなみに、「十六歳の闇」 の原題は "BLUEGATE FIELDS" でこちらも通りの名。シリーズを通して、そういう趣向のようなので、それにちなんだ邦題をつけてほしかったところですね。
特に、「娼婦殺し」にせよ「十六歳の闇」にせよ、ミステリとしての出来はよいので、翻訳が2作だけというのはとても残念です。最初の邦訳のタイトルが「娼婦殺し」などという無粋なものでなかったら、もう少し読者を獲得することができていて、シリーズも翻訳も続いていたのでは、なんてそんなことを考えてしまいました。また訳してください。
アン・ペリーの作品としては、もう一つのモンク警部シリーズが東京創元社から出ていて、先月、「護りと裏切り」 (上)(下) (創元推理文庫)が久しぶりに翻訳されました。こちらも読むのが楽しみです。
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