SSブログ

夢は枯れ野をかけめぐる [日本の作家 西澤保彦]


夢は枯れ野をかけめぐる (中公文庫)

夢は枯れ野をかけめぐる (中公文庫)

  • 作者: 西澤 保彦
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2010/12/18
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
四八歳、独身。早期退職をして静かな余生を送る羽村祐太のもとには、なぜか不思議な相談や謎が寄せられる。「老い」にまつわる人間模様を、シニカルな語り口と精緻なロジックで本格ミステリに昇華させた、西澤ワールドの一つの到達点。


西澤保彦のこの作品のテーマは「老い」です。
ボケだ、介護だ、孤独死だ...テーマがテーマだけに明るい話にはなりませんが、哀しみを帯びたラストにはひとつの救いというか、落ち着きどころが描かれていてほっとします。
西澤作品の特徴(とぼくが考えている)異常な思考回路、というのは健在です。
たとえば3話目の「その日、最後に見た顔は」の心理状況はまったく理解できません。この第3話は老いを扱っていないので適切な例ではありませんが、あちこちにうかがわれるその歪みがこのテーマにふさわしく思えてくるから、それだけ「老い」の抱える問題は深刻かつ重大ということなのでしょう。

ラストの「夢は枯れ野をかけめぐる」を読み始めると違和感を感じるように書かれていて、そこにはよくみられる手法が使われているわけですが、そういう趣向なくあっさり書かれていたほうがよかったのではないかな、とミステリ好きにはあるまじき感想を抱いてしまいました。
いわゆるボケというのは、通常とは違う認識を抱く状況を指すわけですから、そのものがミステリというか、ミステリらしい状況になっているということでもあるわけで、扱いようによっては複雑怪奇な事件創出が可能ですけれど、客観的に見ればボケはボケなので、その視点での状況はミステリとして捉えてはもらえず、真相がぼけていたから、認識相違だったから、では本をぶん投げられるのがおちでしょう。
かなり危ない橋を渡っている作品だと感じました。
全般的にミステリ味を薄くしているので、これはぎりぎり「あり」かと思います。

エンディングでの
「失うものがあるからこその人生じゃないですか。失ってしまったら、そのときは大声で泣けばいいんだわ」
というセリフがなかなか、こう、迫ってくるものがありました。
ミステリ味は薄い異色作として、手に取ってみていただければと思います。

P.S.
それにしても、登場人物の名前が普通なのに驚きました。
羽村、膳場、三留、弓削、小谷野。
いずれもありふれた名前とは言えませんが、まあ普通ですよね。
タグ:西澤保彦
nice!(9)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

nice! 9

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0