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矢上教授の午後 [日本の作家 ま行]


矢上教授の午後 (祥伝社文庫)

矢上教授の午後 (祥伝社文庫)

  • 作者: 森谷 明子
  • 出版社/メーカー: 祥伝社
  • 発売日: 2012/04/12
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
夏の午後。古ぼけた大学の研究棟が嵐に閉ざされた。停電とある事情で連絡も出入りも不可能に。さらに誰も見知らぬ男の死体が発見され、矢上教授は真相を追い始めるが……。殺人者はまだこの建物の中に?
民俗楽器破損、表彰状盗難など、続発したささいな事件と殺人の関係は? 異色の学者探偵が、謎だらけの老朽校舎で奔走する、ユーモア満載の本格ミステリ登場!


森谷明子というと、「千年の黙 異本源氏物語」 (創元推理文庫)で鮎川哲也賞を受賞してデビューした作家で、ほかには「七姫幻想」 (双葉文庫)を読んだことがあります。
なので、時代物を書く作家というイメージが強く、鮎川賞受賞第1作は「れんげ野原のまんなかで」 (創元推理文庫)なので、現代物はこの「矢上教授の午後」 が初めてということではないんですが、「れんげ野原のまんなかで」 は未読なので、現代物はどんな感じなのかなぁ、と思って読みました。

第1章が八月二十日、最終章である第50章が八月二十四日。
第2章は、八月二十三日のお天気を述べているだけなので(お天気もこの物語の重要な要素です)、第3章から第49章まですべてが八月二十三日の午後のお話となります。ごく一部を除いて、舞台も大学の研究第一棟に限られています。つまり、時間も舞台もきわめて限定的となっていて、かなりチャレンジングな設定に挑んでいます。
午後の話が、第3章から第49章まで47個の章に分かれています。それほど分厚い本ではないので、非常に細かく分けられていることがおわかりいただけるでしょう。章の転換にあわせて、舞台も視点人物も変わります。
ジグソーパズルのように、細々としたピースを重ね合わせて全体像が浮かび上がる仕組みです。
まるで日常の謎っぽい事件(?) もいくつか起こるのですが、途中で日常じゃない事件(=殺人)が起こります。日常の謎っぽい事件と殺人が結びついていきます(この程度ではネタバレではないですよね?)。
それを、第1章と第50章が包み込む構造です。
大学の建物という閉鎖的な舞台に、大きな物語を詰め込もうとされていて、その心意気やよし、というところなのですが、きれいには収めきれなかった印象が残ります。非常に盛り沢山な物語になっているので、いくつか刈り込んで絞った方がよかったのかもしれません。その方が、第1章と第50章も輝いたかも。
ただ、細かい群像劇が次第にまとまっていくのを見る快感というのはありまして、こういう作品もたまにはいいなぁ、とニヤニヤしながら読みました。
「緑ヶ丘小学校大運動会」 (双葉文庫)という作品も、限定的な時間・舞台に挑んだ作品らしいです。そちらも読んでみようと思いました。

ところで、大学の研究棟が陸の孤島化する状況となるわけですが、これが実にわかりにくくて困りました。
いや、それなりに書いてはあるんですが、どうも構造が飲み込みにくくて...
QEDやCMBのようにマンガで視覚的に示してくれ、と言いたくなりました。
とはいえ、要するに陸の孤島となったことさえわかればいいので、同じように困られても、無視して調子よく読み進んでいって大丈夫です。


タグ:森谷明子
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