死をもちて赦されん [海外の作家 た行]
<裏表紙あらすじ>
ウィトビアでの歴史的な教会会議(シノド)を前に、アイオナ派の有力な修道院長が殺害された。調査にあたるのはアイオナ派の若き美貌の修道女“キルデアのフィデルマ”。対立するローマ派から選ばれたサクソン人の修道士とともに、事件を調べ始める。フィデルマの名を世に知らしめることになる大事件と、後に良き相棒となるエイダルフとの出会いを描いた、ファン待望の長編第一作遂に登場。
上で引用したあらすじでは、ファン待望の、とありますが、このシリーズ、初めて読みます。
あとがきに書いてありますが、このシリーズの邦訳は5-3-4-1-2という順で訳されたようですね。
シリーズ物はできれば(原書が)出た順に読みたい(シリーズ物でなくても、ある作者の作品は出版順に読みたいと思っていますが)ので、ここまでの邦訳3冊が売れていなかったら、この第1作が訳されることもなかったわけで...こういう翻訳順はちょっと困るなぁというところ。日本では割とこういうこと(出版順に翻訳されないこと)がよくあるんですよね。
でも逆に、第1作を手に取るころには日本で好評を持って受け入れられたことがわかっているということでもあるので、本を選ぶときに安心できるとも言えるんですよね。うーむ。
で、この「死をもちて赦されん」 を読んでどうだった、というと、おもしろかったですね。
シリーズの翻訳順が原書出版順とならなかった理由は、第1作、第2作で色濃いカトリック内部の教義論争が受け入れられにくいと判断されたことと、作品の舞台がアイルランドではないので古代ケルトというシリーズの特色があまり出ていないと判断されたこと、のようです。
いや、こんなの杞憂ですよ。
しっかりとした作品ですし、「死をもちて赦されん」 から訳されても、十分受け入れられ、評価されたと思います。
宗教会議も、おもしろかったですよ。特に、政治状況と結びついているところがよろしい。宗教が宗教のみの事情で決せられない、というよりも、宗教はそもそも政治と分かちがたく結びついていたということでしょう。
ミステリの部分も、クラシックなミステリらしい結構で楽しめました。
これだけ古代の香りが立ち込めている中に、こういう動機を抛り込んでくるなんて、なかなかピーター・トレメインも曲者ですね。
それにしても、人気シリーズとのことですが、主人公であるフィデルマ、嫌な女ではありませんか(笑)?
シリーズ続巻を読んで、フィデルマがどう変わっていくのか、観ていきたいと思いました。
<蛇足>
(1) バリトンに“中髙音”という漢字があててあるのですが(117ページ)、高 ではなく、髙(いわゆる、はしごだか)でした。なぜ?
(2) 「客観的な同情の視線で見守った」(221ページ)というのは、どういう視線なんでしょうね?
原題:Absolution by Murder
作者:Peter Tremayne
刊行:1994年
翻訳:甲斐萬里江
ここにこれまで邦訳されている長編の書影を、ぼく自身の備忘のために順に掲げておきます。
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