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このミステリーがひどい! [日本の作家 か行]


このミステリーがひどい!

このミステリーがひどい!

  • 作者: 小谷野敦
  • 出版社/メーカー: 飛鳥新社
  • 発売日: 2015/07/30
  • メディア: 単行本




ミステリーファンにとっては、かなり刺激的なタイトルになっています。
確かにミステリーの悪口満載ですが、気分悪くはならなかったですね。
だいたい、作者自身 “ミステリー嫌い” として書かれているようですが、ここも実はあやしいように思います。
「ミステリー嫌い」と明記されていなかったような気がします。
「私がしばらく嫌っていた推理小説を見直すきっかけとなったのがこの作品である」(12ページ)
なんて記述もかなり早い段階で出てきます。「嫌っていた」「見直す」ってことは、今は嫌いじゃないってことでしょう??
第一章の章題が「いかにして私は推理小説嫌いとなったか」なんですが、正直、嫌いになったようには見受けられません。

「私を決定的にミステリー嫌いにしたのは、一九八四年十一月二十六日月曜日に読了したアガサ・クリスティの『クロイド殺人事件』である。」(45ページ)
なんて書かれていますが、その理由がもう一つぴんと来ません。
(ちなみに、どうでもよいことですが、大久保康雄訳の創元推理文庫版で読んだとされていますので、タイトルは、「アクロイド殺害事件」のはずです。殺人事件、ではなく、殺害事件ですね)
「『意外な犯人』と書いた紹介文が悪いのではない。記述に矛盾があるとも言われるが、それもどうでもいい。我慢ならないのは、たったそれだけのことで、いかにもいわくありげに、色々な登場人物を出して、面白くもない長いストーリーを読ませたことである」(46ページ)
と書かれています。
まあ、「アクロイド殺害事件」がどうか、というのは置いておくとしても、意外な種明かしをミステリの身上とするなら、長いストーリーが無駄だ、と思う人もいるでしょうし、そういう批判はこれまでもいろんな人がしているので、なんだかなぁ、というところ。それが理由でミステリ嫌いに?? なんだかつまんない理由ですねぇ。
で、そのあと、クリスティーが原作の映画とかドラマの話になるのです。
「まあそこそこ面白くはあるが、原作まで読もうという気にはならない」(50ページ)とも。
うーん、映画もドラマも小説もごっちゃで、ストーリーを重視されているのだなぁ、ということがうっすらとわかります。
(99ページには
「私は、純文学派ではあるが、ストーリー主義者である。」
「だから推理小説でも、トリックやらアリバイだけでなく、優れたストーリーが必要だと考えているのだが」
という記述もあります。)
であれば、こういうスタンスでミステリーを(あるいはそれ以外のジャンルの小説も)読まれているのであれば、批判されても一向に気にはなりませんねぇ。見方が違うというだけだから。そう読む人もいるんだね、ってだけです。
あと、小谷野さん、「嫌い」とされる割には、小説も、映画も、ドラマも、かなりの数を読んだり観たりされているようです。
こういうのって結局好きなんじゃないですかねぇ?
知人に、「アンチジャイアンツ」というのは結局(裏返しの)巨人ファンなんだ、と主張する人がいますが、そんな感じ?
こう受け止めたから、ミステリーの悪口満載でも気にならなかったのかも。

あとがきに、推理小説ベストが挙がっています。
一位、西村京太郎「天使の傷痕」 (講談社文庫)
一位同点、筒井康隆「ロートレック荘事件」 (新潮文庫)
三位、貴志祐介「硝子のハンマー」 (角川文庫)
四位、ヘレン・マクロイ「殺す者と殺される者」 (創元推理文庫)
五位、中町信「模倣の殺意」 (創元推理文庫)
六位、北村薫「六の宮の姫君」 (創元推理文庫)
七位、折原一「倒錯のロンド」 (講談社文庫)
偏ったリストではありますが、なかなかいい作品が並んでいるではないですか。

ほかに、悪口満載のこの本の中で褒められているのは、
「江戸川乱歩傑作選」 (新潮文庫)(33ページ)
ケン・フォレット「針の眼」 (創元推理文庫)(98ページ)
歌野晶午「葉桜の季節に君を想うということ」 (文春文庫)(104ページ)
ディクスン・カー「皇帝のかぎ煙草入れ」 (創元推理文庫)(106ページ)
フリーマン・ウィルス・クロフツ「樽」 (創元推理文庫)(112ページ)
貴志祐介「青の炎」 (角川文庫)(113ページ)
西村京太郎「終着駅(ターミナル)殺人事件」 (光文社文庫)(143ページ)
丸谷才一「横しぐれ」 (講談社文芸文庫)(147ページ)
広瀬正「エロス―もう一つの過去」 「ツィス」  どちらも集英社文庫(167ページ)
高村薫「レディ・ジョーカー」 〈上〉〈中〉 〈下〉 (新潮文庫)(197ページ)
天藤荒太「永遠の仔」〈1〉〈2〉〈3〉〈4〉〈5〉 (幻冬舎文庫)(197ページ)
宮部みゆき「龍は眠る」 (新潮文庫)(200ページ)
辻村深月「鍵のない夢を見る」 (文春文庫)(212ページ)
野沢尚「破線のマリス」 (講談社文庫)(215ページ)
加納朋子「ななつのこ」 (創元推理文庫)(237ページ)
小杉健治「土俵を走る殺意」 (光文社文庫)(242ページ)
小野不由美「残穢」 (新潮文庫)(246ページ)
これだけ、おもしろい、よい、気に入った作品があるなんて、ミステリー好き、ですよ。

かなりネタバレ満載ですので、そこは気を付けた方がよいかもしれません。


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