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しだれ桜恋心中 [日本の作家 ま行]


しだれ桜恋心中

しだれ桜恋心中

  • 作者: 松浦千恵美
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2014/10/24
  • メディア: 単行本


<表紙袖あらすじ>
若手文楽人形遣いの屋島達也は、師匠・吉村松濤のもとで充実した修業の日々をおくっていた。
そんなある日、達也は怪しげな魅力を持つ花魁の文楽人形「桔梗」を見つける。桔梗は『しだれ桜恋心中』という演目専用に作られた、特別な人形らしい。だが、約60年前に『しだれ桜恋心中』が上演された際、技芸員が次々と不審死を遂げていたことを知り、達也は桔梗に近づくことを恐れはじめる。
一方、補助金削減問題に揺れる日本文楽協会は、『しだれ桜恋心中』を呪いの演目として興行し、観客を呼びこもうとするが……。
一つの演目に込められた想いが引き起こす悲劇を描いた、第4回アガサ・クリスティー賞受賞作。


単行本です。
第4回アガサ・クリスティー賞受賞作。
奥付を見ると、2014年10月20日。うわぁ、2年も前の本だ...

アガサ・クリスティー賞は
第1回が森晶麿「黒猫の遊歩あるいは美学講義」 (ハヤカワ文庫JA)
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第2回が中里友香「カンパニュラの銀翼」 (ハヤカワ文庫JA)
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と非常に癖のある作品が続けて受賞したあと、
第3回が三沢陽一「致死量未満の殺人」 (ハヤカワ文庫JA)
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で普通の本格ミステリがようやく受賞しました。
で、今回第4回のこの「しだれ桜恋心中」で、再びくせ者路線に戻りましたね。

ミステリ的な趣向もあり、ミステリ的な展開を見せても、この「しだれ桜恋心中」をミステリとして呼ぶのは少々無理がありそうです。
巻末につけられている選評を拝見しても、ミステリかどうか、疑念が呈されていますね。
鴻巣友季子さんの言うところの、「無謀とも言える語りのパワー」というのがポイントなのでしょうね。

文楽が題材で、修行中の若者を中心としたストーリーなんですが、文楽人形がしゃべるわ、動くは、もう、作者はやりたい放題です。
もともと人形というのはホラーでもよく使われますし、超常現象を起こす存在として、古今東西いろいろな物語で使われてきているのですが、ミステリーの場合は、もうちょっと抑制的というか、気を配った使い方をする必要があると思います。
文楽人形がしゃべることを前提として(特殊な)ミステリー世界構築、ということでもなく(文楽人形がしゃべるからこそのトリックとか、仕掛けとかがある、わけでもない)、単に文楽人形がしゃべる世界で普通の(ミステリーっぽい)ストーリーが展開するだけ、なので、ちょっと拍子抜け。

と、ミステリーとしては破格で、まあ正直落第といった出来栄えなんですが、面白く読んじゃったんですよねぇ。
人形を意識・意志を持つ一人の登場人物として配すとどうなるか、というのは、よくある安直な発想で、しかも文楽とか人形浄瑠璃とか人形が大きなウェイトを占める古典芸能を舞台に、となるとそれこそ安直の極みみたいな感じもするのですが、こちらに馴染みのない世界だからか、わりとすっと世界に入っていけたように思います。
北上次郎さんの選評「手垢のついた素材を人形を媒介にすることで新鮮な風景に一変する鮮やかさに注目したい」というのはこのあたりのことも関係しているかもしれませんね。(北上さんが文楽にお詳しかったらすみません)

ということで、アガサ・クリスティー賞という看板は無視して、ミステリを期待せずにお読みください。




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