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麗しのオルタンス [海外の作家 ら行]

麗しのオルタンス (創元推理文庫)

麗しのオルタンス (創元推理文庫)

  • 作者: ジャック ルーボー
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2009/01/28
  • メディア: 文庫

<裏表紙あらすじ>
金物屋が次々に襲われ、深夜0時直前、大音響とともに鍋が散乱する。平和な街に続く〈金物屋の恐怖〉事件。犯人は? 動機は? 哲学専攻の美しい女子大生オルタンス、事件担当のブロニャール警部、そして高貴な血を引く猫のアレクサンドル・ウラディミロヴィッチ……。何がどうなる? 文学実験集団ウリポの一員である詩人で数学者の著者が贈る珍妙な味のミステリ……なのか。


映画の感想を挟みましたが、5月に読んだ6冊目の本の感想です。
300ページもない薄い本なのですが、少々読むのに時間がかかりました。なにせ実験的な小説なもので。
『最近読んだ本でいうと、「チャーリー・モルデカイ」(角川文庫)シリーズがイギリス風のおふざけなら、この「麗しのオルタンス」 (創元推理文庫)はフランス風のおふざけです。』と書こうと思っていたのですが、考え直しました。
イギリス風、フランス風の対比ではなく、
『最近読んだ本でいうと、「チャーリー・モルデカイ」シリーズのような高踏的なおふざけに、文学的なおふざけ(あるいは実験)を加えると、この「麗しのオルタンス」 になります。』
と書くほうがいいと思います。

非常に「語り」を意識した小説になっていまして、ある意味わかりづらい。メタ炸裂。
冒頭早々、2ページ目にして「筆者(われわれ)」とか「私ことジャック・ルーボー」とか「語り手」とかの語が出てきます。すでに読者が混乱する兆しが。
2ページ目で予告されていますが、第2章で「語り手」である私(小説家志望のジャーナリストであるジョルジュ・モルナシエ)の視点が導入され、一方で猫のアレクサンドル・ウラディイロヴィッチのことを書く章もあります。かと思えば、いわゆる神の視点である三人称の部分もある。
著者(ジャック・ルーボー)と語り手(モルナシエ)に加えて、校正担当者や校正部長まで出てきたりもします(大体においては註ですが)。

こういう入り組んだ構造の中で語られる事件が、金物屋での悪戯、ですから...「殺人事件はまったく起こっていない」(276ページ)のです。
そこに、タイトルにもなっている魅力的な哲学専攻の女子大生でワンピースの下にパンティをはいていないことが(比較的稀にだが)ある(30ページ)オルタンスの日常生活(?) や、二年前に失踪したポルデヴィア公国の第一皇位継承者ゴルマンスコイ皇子の失踪(?) 事件や、アレクサンドル・ウラディイロヴィッチ(猫です)の恋模様(?) も描かれます。
すみません、(?) ばかりですが、どれもこれも読んでいると重要な気になる要素ながら、さてどういうことを描いているのか的確に言い表しにくいのです...

こういう凝りに凝った、そして計算ずくの作品(ちっとも読み取れていないと自分でも思いますが、こういう作品が作者による緻密な設計の賜物であることは自明だからこう書いておきます。緻密な計算に裏打ちされていないと、ただただでたらめになってしまって、ぼくのような理解度の低い読者には全体が何がなんだかわからず何が書いてあるのかもわからなくなるはずですから)、ミステリかどうかは置いておいても、たまに読むと刺激になりますね。じっくり読み返してみたい気もします。

訳者あとがきによるとこれは三部作らしく、今のところ2作目の
「誘拐されたオルタンス」 (創元推理文庫)
まで翻訳が出ています。


原題:La Belle Hortense
作者:Jacques Roubaud
刊行:1990年
翻訳:高橋啓


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