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聖餐城 [日本の作家 ま行]


聖餐城 (光文社文庫)

聖餐城 (光文社文庫)

  • 作者: 皆川 博子
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2010/04/08
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
「馬の胎から産まれた少年」アディは、新教と旧教が争う三十年戦争の戦地を渡り歩きながら育った。略奪に行った村で国王にも金を貸すほど裕福な宮廷ユダヤ人の息子イシュアと出会う。果てない戦乱のなか傭兵となったアディは愛してはいけない女性に思いを寄せ、イシュアは権謀を巡らし権力を握ろうとする。二人の友情を軸に十七世紀前半の欧州を描く傑作歴史小説!


皆川博子さんの作品、ことに海外を舞台にした作品は、タペストリーのように精緻で繊細かつ絢爛でいて、手触りは陶器のようになめらか、な印象を受けています。
と、久しぶりの感想なので、前に書いた「伯林蝋人形館」 (文春文庫) の感想(リンクはこちら)と同じことを書いておきます。

まず長大さにびっくり。本文の終わりが855ページ。測ってみたら厚さ3.8センチメートルもありました。
この「聖餐城」の題材は神聖ローマ帝国に端を発する三十年戦争。西欧史は知らないので三十年戦争といっても???。
この題材で、この厚さ。
読む前はちょっと臆していたのですがそんなのは杞憂。読みはじめたらいつもの皆川博子さんの作品どおり、しっかり楽しめました。

物語を引っ張っていくのは、アディとイシュア。
二人の成長物語、といってもよいかもしれません。二人は三十年戦争で育ったわけですね。
アディは、馬の胎に縫い込まれて捨てられていたのを、輜重隊についてまわる酒保商人ザーラに拾われて人生がスタートし、やがて傭兵に。
一方のイシュアは、宮廷ユダヤ人の息子なんですが、父親によれば錬金術師によって造られた人造人間=ホムンクルス、だと。投獄されてつらい生活を送らされる羽目に。

物語の底流に流れるのは、タイトルにもなっている聖餐城と青銅の首。
早い段階で
「〈聖餐城〉は、どこにあるのだね」(46ページ)
と触れられます。
「ルドルフ陛下とかかわりのある城だとか、もっとも有能な錬金術師をそこにおかれたとか、申すも恐れ多いことながら、ルドルフ陛下の……その……亡霊が出没するとか」(108ページ)
と説明されますが、所在不明(ルドルフ陛下というのは神聖ローマ帝国の皇帝みたいです)。また、
「青銅の首は、およそ七百年も昔、法王シルヴェステル二世が造らせた青銅製の、人の首を模した機械仕掛けで、政治上の問題について法王が質問すると、正確な指針を示した。首の製造法を知るために、シルヴェステルは悪魔に忠誠を誓ったと言い伝えられている。
 首の所在はとうに、わからなくなっていたのだが、父が祖父からわずかに聞いたところでは、ルドルフの蒐集に加えられたらしい。それが事実だとしても、おそらく、ものの役にはたたぬほど、内部の機械は壊れているだろうと父は言った。
 聖餐城におかれているとも聞いたが、その聖餐城というのが、どういう城なのか、どこにあるのか、どうやら祖父は知っていたらしいのだが、父には伝えられてないという」(197ページ)
とイシュアの兄であるシムニョンが整理しています。
こうした不思議な城や機械というのは世人をひきつけるものがありますね。残酷なものですが、同時にロマンティックだったりもします。

これらを背景に、三十年戦争の戦闘が繰りひろげられます。
各人、各国の思惑が入り乱れての戦争。当時の戦争の状況がよくわかりました。
しっかりと社会に食い込み、必要な存在となっているにも関わらず昔からユダヤ人が蔑まれ、嫌がられていることもわかりました。
正規軍みたいなのはなくて、ほぼすべてが傭兵というのはすごいですね。

物語の終盤、
「《青銅の首》を、私は発見した。」
「聖餐城とは、すなわち、ここであったのだ。」(729ページ)
とイシュアはアディに語ります。ついに見つかった! という感じ。
「私自らが、ここで、《青銅の首》になる」(729ページ)
というイシュアの決意が哀しいですね。

三十年戦争の終了、撤兵まで見届けて物語は終わりますが、イシュアとアディ、二人の出会いの不思議さが心に残りました。


<蛇足>
皆川博子さん、
「とんでもないことでございます」(791ページ)
とシムニョンに言わせています。
いい加減な作家なら、「とんでもありません」とか「とんでもございません」と書くようなところ、さすがです。


タグ:皆川博子
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