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時を巡る肖像 [日本の作家 柄刀一]


時を巡る肖像 (実業之日本社文庫)

時を巡る肖像 (実業之日本社文庫)

  • 作者: 柄刀 一
  • 出版社/メーカー: 実業之日本社
  • 発売日: 2010/12/04
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
キャンバス越しに観察眼が見たものは…
フィレンツェで絵画修復技術を学び、ミケランジェロの天井画の修復工事にも参加経験を持つ主人公・御倉瞬介が巻き込まれる、名画に関わる不可解な事件。世界の文化遺産ともいうべき名画にまつわる、修復されない傷みに隠された「生と死」の謎を、キャンバス越しに冴えた観察眼で究明していく。驚愕の、柄刀美術ミステリーの傑作6編を収録する本格推理連作。


副題に「絵画修復士 御倉瞬介の推理」とあります。
シリーズになっていまして、この「時を巡る肖像」 (実業之日本社文庫)が第1作で、続いて
「黄昏たゆたい美術館―絵画修復士 御倉瞬介の推理」 (実業之日本社文庫)
「システィーナ・スカル - ミケランジェロ 聖堂の幻」 (実業之日本社文庫)
が出ています。
2015年10月に読んだ本でして、今あらためて感想を書こうとしたら、すっかり内容を忘れてしまっています。今回ぱらぱらと読み返してみて、主人公である御倉瞬介の設定がさっと思い出されました。
イタリア人・シモーナと結婚したけど死別して、7歳の子供・圭介を一人で育てている。家には家政夫・加護祥斎がいて家事を取り仕切ってくれている。瞬介は圭介を仕事場に連れて行くこともある。

連作短編集でして、六話収録。各話のタイトルページに絵が掲げられています。
「ピカソの空白」…ピカソ「犬と少年」
「『金蓉』の前の二人」…安井曾太郎「金蓉」
「遺影、『デルフトの眺望』」…フェルメール「デルフトの眺望」
「モネの赤い睡蓮」…モネ「睡蓮」
「デューラーの瞳」…デューラー「自画像」
「時を巡る肖像」…この作品にはなし。

それぞれかっちり作ってあるんですが、ミステリとしては印象が薄い。
農薬には強烈な匂いと苦味があることを逆手にとった「モネの赤い睡蓮」とか、大がかりなトリックを持ち込んだ「デューラーの瞳」とか、印象に残ってもよさそうなんですが、覚えていなかった(こちらの記憶力がひどい、ということもありますが)。
せっかく絵画修復士を主人公(探偵役)にして、名画も登場させるんだから、絵画修復士ならではの謎解きを見せてほしいと思うんですが、なかなかねぇ。名画の解説とか巨匠をめぐる考察も、事件や謎解きとさほどリンクもしない。ミステリとしては残念なポイントです。
一方で、人物設定はすぐに思い出したんです。シモーナと瞬介をめぐるエピソードは印象深い点があちこちにあります。
たとえば、
「彼女は、恋愛を加速させるのは“悔い”なのよ、と言っていた。それを形にするのも、質を量るのも“悔い”なの、と……」(83ページ)
「向こうの家族の同意を得て、火葬にしましたから、遺灰を少し手元に残してありましてね、幾つかあるあのデルフト焼の壺におさめてあるのですよ。家のいろいろな場所で、圭介の姿を観たり、声を聞いたりできるように」(189ページ)
彼らにはまた会いたいですね。
それに、ミステリとの結びつきには不満を持つものの、名画や巨匠をめぐる考察がとてもおもしろいのです!
例によってよたよたとではありますが、シリーズは続けて読んでいきたいな、と思います


<蛇足>
「睡蓮を描き続けて、そこに“船”見た。」(262ページ)
とありますが、そこに“船”見た、ですよね...

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