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身代わり島 [日本の作家 石持浅海]

身代わり島 (朝日文庫)

身代わり島 (朝日文庫)

  • 作者: 石持 浅海
  • 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
  • 発売日: 2014/12/05
  • メディア: 文庫

<裏表紙あらすじ>
景観豊かな鳥羽湾に浮かぶ本郷島が舞台となった大ヒットアニメーション映画『鹿子の夏』のイベント開催を実現させるため、木内圭子ら発起人5名は島を訪れる。しかし打ち合わせをはじめた矢先、メンバーの辺見鈴香が変わり果てた姿で発見される…。


石持浅海の本は、以前感想を書いた「わたしたちが少女と呼ばれていた頃」 (祥伝社文庫)(感想ページへのリンクはこちら)のあと、「トラップ・ハウス」 (光文社文庫)を読んでいるのですが、感想を書けませんでした。

クローズド・サークル大好き作家である石持浅海ですが、「身代わり島」 (朝日文庫)は、島を舞台にしているといってもクローズド・サークル物ではありません。

冒頭、序章で戦時中の本郷島の様子が描かれます。
第一章になると一転、現代となり、本郷島へやってくる主人公たちのストーリーとなります。
(島には、明らかに序章に登場した人たちの子孫と思われる人物がいて、物語にも登場するのですが、そのあたりはまったく触れられません。なんらかの形で先祖の経験を話してくれるシーンがあったほうが自然だったのではと思いましたが、本筋とは関係のない話です)
視点人物は木内圭子なんですが、彼女が何かを隠している感じが濃厚です。
これがまず問題。結局、思わせぶりなだけで大して隠していることに意味がなかった...これなら、さっさと読者には明かしてしまってよかったのではないでしょうか?

このほかにもこの作品には残念なところがいっぱいです。
序章の戦時中のエピソードも、本郷島が身代わり島だという由縁も、中途半端な感じです。身代わり、というテーマを事件にも響かせることができているか、という点も、今一つ。
いつも石持浅海作品では問題となる動機については、今回はぎりぎり納得いくものが用意されていますが(といっても実際にそれで人を殺してしまうかどうかは、これでもまだ大きな疑問が残るのですが)、アニメの熱烈なファンという集団の中に置いたとき、あまりにもステレオタイプなので、ちょっとげんなり。それを狙ったのでしょうけれども。
犯人指摘の手がかりも、犯人の心理に着目したおもしろいものが用意されているのですが、おもしろいとは思ったものの、手がかりとしては不十分というか、いくらでも言い抜けが可能で突っ込みどころ満載な感じで、残念なパターン。
最後に明かされる全体の真相も、まさかあの名作(ネタバレですのでリンクをクリックするのはそれをご了承の上お願いします)を意識したものではないと思いますが、あの名作と違って、「あぁ、なるほど、そういう事か!!」とはならずに、「なんか、都合よくごまかしちゃったんだな」という感想を抱いてしまいます。
ミステリの部分を離れても、圭子が探偵役となる鳴川に惹かれていくのはわかるんですが、果たして鳴川がどう思っているのか、もうちょっと書き込みが必要な気がします。
全体に、ちぐはぐな印象がぬぐえません。
結構、おもしろく読んだんですけどねぇ、全体として振り返ってみると、あらばかりが目立っちゃった気がします。


<蛇足1>
「女の子を芸能界にスカウトする人間は、本人よりも母親を見るのだと聞いたことがある。母親が美人なら、その子は将来美人になる確率が高いかららしい。」(65ページ)
真偽のほどはわかりませんが、なるほどねー、と思ってしまいますね。

<蛇足2>
初日の夕食として民宿「高梨」でアイナメの刺身に加えて、唐揚げが用意されています。そして
「食後のデザートなのだろう。三角形に切られたスイカを運びながら」(70ページ)
と、デザートにスイカが用意されています。
ここであれっと思ってしまいました。
スイカと唐揚げって、いわゆる食べ合わせではなかったかなぁ、と。実際にはスイカと食べ合わせなのは、天ぷらでした。
もっとも、天ぷらであっても、本当にスイカと食べてはだめなのかはあまり科学的根拠はないようですが...ちょっと古臭いことを思い出してしまいました。

<蛇足3>
「災厄を招く原因を作った人間だったり、鹿子のことを子供と見下す人間だ」(94ページ)
「~たり、~たり」になっていませんね...「たり」は、繰り返すのが本来の用法だと思うのですが...

<蛇足4>
「浄土真宗」「木像より絵像、絵像より名号ですか。」(130ページ)
そして
「確か、真宗は偶像崇拝を禁じているとか」
「そうです。阿弥陀如来は光明であり、智慧ですから。本来、形のないものなのです。」(同)
というやりとりがあります。
そうなんですね、知りませんでした。

<蛇足5>
「よく冷えた麦茶が喉に心地よい。すっかり飲み干してしまうと、今度は熱いお茶を出してくれた。まるで石田三成だ。」(133ページ)
この石田三成のエピソード知っていたはずですが、思い出せませんでした。ネットで調べて、ああ、そうだったな、と。
我ながら、だいぶんボケてきていますね。


タグ:石持浅海
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