真赤な子犬 [日本の作家 は行]
<裏表紙あらすじ>
五ツ木守男は自殺しようと準備万端、毒入りステーキを用意した。いざ! その前にトイレ……戻ると、なんと食いしん坊の国務大臣がステーキを頬張っているではないか! 慌てた守男は四階から転落死。現場に駆け付けた四道警部は、真赤な犬を見たという女中の証言が気になっていた。そんな犬、存在する? さらに雪山で扼殺死体まで見つかってさあ大変! ハイカラで流麗な本格ミステリ復刊。
日影丈吉というと一時期徳間文庫にかなり揃っていた印象だったのですが今やほぼ全滅。
近年の復刊ブームに乗って、この「真赤な子犬」 (徳間文庫)も新装版が出ました。
めでたい。
実はタイトルを見てもなんとも思っておらず、本文での指摘で初めて気づいたのですが、「真赤な子犬」 って、変ですよね。
たしかに、真っ赤な犬なんていない...
この点にちゃんと合理的な(?) 説明がついていますし、このことが物語を駆動する仕掛けとしてちゃんと機能しています(でないとタイトルにする意味がないかもしれませんが)。
このあたりの細かい配慮がステキです。
あらすじからもお分かりいただけると思いますが、かなりドタバタ調で、場所もストーリーもあちらへ飛び、こちらへ飛び、かなりスピーディーです。
また、章題に「読者だけが知っている」なんていうのがありますが、読者だけが知っていることと警察が知っていることに差異が設けてあり、そこが物語に趣を与えてもいます。
毒入りステーキを横取りして(?) 食べちゃう国務大臣三渡の影武者を務める(務めさせられる)守衛の山東さんがいい味ですね。
「無欲らしい山東は、こうして見ると三渡氏よりもずっと品がある」(131ページ)
なんて秘書の久我が言うくらいですから。
これらの愉快な要素と物語が語られる勢いの良さ(と巧みな構成)に流されて、事件の真相から目をそらされてしまうんですね。
雪山の足跡のトリックとか、単純なんですがうまく仕組まれていると思いました。
解説で千街晶之が書いている他の成功作「女の家」「孤独の罠」「地獄時計」なんかもどこかで復刊してほしいですね。
<蛇足1>
発表年が1959年と60年近く前の作品なので、時代を感じさせる表現があふれているのが興味深いですよね。
いきなり「ゴチック式」ですし、暖房ではなく煖房。「せせり歩く」なんて表現もクラシカルなイメージ。これが1ページ目です。
あれっと思ったのは、
「今日は幾日だったっけかな?」(101ページ)
というフレーズ、幾日に“いくか”とルビが振ってあります。こういう言い方をしたんですね。
今だと何日(なんにち)というところですね。
今回ここを入力しようとして“いくか”と入れてみても漢字変換されませんでした。
すっかり廃れてしまった言い方、ということでしょう。
<蛇足2>
プランクステーキというのが出て来ます。たとえば27ページ。
知らなかったので、ネットで調べてみましたが、ハンガリー料理なんですね。
「プランクステーキとは、木のお皿に、赤ワインとパプリカでマリネされたステーキに、マッシュポテトと野菜と2種類のソース(ペッパーソースとベアルネーズソース)が盛り付けられているもの」だそうです。(見つけたページにリンクを貼っています。勝手リンクですみません)
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