シフォン・リボン・シフォン [日本の作家 近藤史恵]
<裏表紙あらすじ>
乳がんの手術後、故郷に戻ってランジェリーショップをひらいたオーナーのかなえ。彼女のもとを訪れる、それぞれの屈託を抱えた客たちは、レースやリボンで飾られた美しい下着に、やさしく心をほぐされていく。地方都市に生きる人々の希望を描く小説集。
近藤史恵のランジェリーショップをキーにした連作集です。
余談ですが、男なのでブラジャーを身に着けたことがなく、「シフォンとチュールとレースが」(163ページ)とか言われても何のことやらなのですが、たとえば女性の読者なら、162ページから書かれているような感想、共感できるんでしょうか? そうするとこの作品をもっともっと楽しめるのかも。
あっ、でも、知らなくても楽しめますよ。そのあたりは安心印の近藤史恵さんの作品ですから。
ただ、引用しておいてなんですが、裏表紙側のあらすじは読まないほうがいいですね。
それよりは帯の
「地方都市のさびれた商店街に花ひらいたランジェリーショップ。そこに出入りする人々の屈託と希望を描く小説集。」
くらいの知識のみで読み進めたほうが心地よいと思います。
それこそ繊細な下着のような(とここは想像ですが)、柔らかな手触りにくるまれてはいるものの、物語の芯にあるのは、近藤史恵らしく重いテーマだったりします。
乱暴にまとめてしまうと家族が一番面倒くさい、でしょうか......
そしてそこに、まっすぐ前を向いて生きていく知恵が忍ばせてある。
でも家族だ、ということ。
ミステリ味はほぼないですが、すんなり楽しく読めました。
<蛇足1>
「テレビに映る東京は、なにもかも華やかで新しく、ぺかぺかと輝いているように見えた。」(12ページ)
ぴかぴか、でなく、ぺかぺか、なんですね。
<蛇足2>
「そりゃあ、大変なことも多いだろうけどさ。やっぱり一国一城の主がいいよ。雇われて、だれかの下で働くよりもさ。」(105ページ)
父から米穀店を継いだ兄に、会社員になった弟がいうセリフです。
よく言われる話ですし、どちらにも一長一短、善し悪しがあると思いますが、確かに、自分で決めて自分で引き受けることのできる立場は、サラリーマンからするとうらやましくなりますね。
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