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ジェゼベルの死 [海外の作家 は行]

ジェゼベルの死 (ハヤカワ・ミステリ文庫 57-2)

ジェゼベルの死 (ハヤカワ・ミステリ文庫 57-2)

  • 作者: クリスチアナ・ブランド
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 1979/01
  • メディア: 文庫

<裏表紙あらすじ>
〈おまえは殺されるのだ〉 素人演劇の公演を前に、三人の出演者に不気味な死の予告状が届く。これは単なる嫌がらせか。やがて舞台をライトが照らし出し、塔のバルコニーに出演者の一人、豊満な肉体を誇る悪女ジェゼベルが進み出る。その身体が前にのめり、異常なほどゆっくりと落下した。演者の騎士たちが見守る”密室状態”の中で……。現場にいたコックリル警部は謎を解けるのか? 本格推理の限界を突破する圧巻のミステリ


再読です。
本格ミステリの傑作です。
一時期、人に貸しまくって布教活動を行っていたことまであります(笑)。
ふと、読み返したくなって改めて購入しました。

読み終わって、やはりすごい作品だなぁ、と感動しました。
印象的なのは「それこそカーやチェスタトンも蒼くなるような悪魔的発想のトリック」と解説で山口雅也が書いているトリックで、そこがもともと強く記憶に残っていたのですが、読み返して気づいたのは、そのトリックをくどくどと説明していないこと。
さっと匂わすというか、登場人物や読者に察しをつけさせるように書かれています。
ここがすごい。
不可能だと思われた状況が、このトリックで鮮やかに説明されるようになっている。でもそのトリックをつまびらかに説明はしない。
そしてこのやり方(明かし方)がこのトリックにはとてもふさわしいんですよね。
鮮やかな印象を深く深く、読者に刻み付けることに成功しています。
トリックの使い方もとても考えられています。
これと同じトリックを使った作品がこの後何作も書かれていますが、使い方、隠し方はこの作品が一番うまいように思います。

推理合戦、というか、自白合戦になるところもおもしろいですよね。
一種の多重解決ものといえる趣向になっています。
そしてその推理合戦が、程よいミスディレクションにもなっている。さすがはミステリ巧者のブランド。
登場人物が少なく、したがって容疑者も少ないというのに、読者に見当をつけさせない。お見事!
(おまけですが、250ページで披露される推理には思わず笑ってしまいました)

今回あれっと思ったのは、コックリル警部のキャラクター。
なんか、いやな奴みたいに感じてしまいました。その分、人間くさい、とも言えますが。
また、名探偵、という感じでもない。
この人、結局のところ、事前に真相にたどり着いていたのでしょうか? 
なんだかうまく騙された気がします。

「ジェゼベルの死」と同じくらい大好きな「疑惑の霧」 (ハヤカワ・ミステリ文庫)も復刊してくれないかな。
読み返したいですね!
「ジェゼベルの死」の種明かしのシーンも強烈ですが、「疑惑の霧」 の種明かしのシーンでは文字通り、「ぎゃっ」と叫んで居ずまいを正してしまったくらいですから。



<蛇足1>
「ホッケーやラクロッスなどは教えてくれないが」(39ページ)
とあって、おやっと思いました。
原書は1959年刊行ですが、そのころからラクロスってあったんだ、と思ったからです。
でも、これはこちらが不勉強なだけで、ラクロスという競技自体はずいぶん古くからあったんですね。

<蛇足2>
「ハンプステッドに着く頃には」(153ページ)
今だと、ハムステッドと表記しますね。
「ケンジントン上通りに」(224ページ)
これは、ケンジントン・ハイストリートのことでしょうねぇ。

<蛇足3>
「この展示会の会場のどこよりも、衛生施設がいくらかましだということだけだった。」(178ページ)
衛生施設? なんでしょうね? 原文を確認してみたいところです。

<蛇足4>
「年がら年中、“すばしこい茶色の狐がなまけものの犬にとびかかった”と打つ必要はないんですからね」(187ページ)
なんか懐かしかったですね。
The quick brown fox jumps over the lazy dog
アルファベットの26文字を全て使った作った文章で、タイプライターなどの試験、試し打ちなどで使われていた文句です。
同じ文字が何度か使われますので、その点では、日本のいろは歌の方が断然優れていますね!
訳注がついていませんが、訳された当時は日本でも常識的な事項だったのでしょうか?


原題:Death of Jezebel
作者:Christianna Brand
刊行:1949年
訳者:恩地三保子


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